小説 川崎サイト

 


 暑いのか喉が渇く。上田は水道の水を飲もうとしたが熱湯が出る。ガス湯沸器がいらない季節。ただ最初だけ。コップ数杯分で、そのあと冷たいとは言えないものの、この時期の水温になる。
 ここに氷を入れればお冷やになるが、逆に喉が渇く。それに冷たいものは避けたい。胃腸が悪いわけではないが、暑いのではなく、喉が渇いているだけなので喉が潤えばそれで充分。水なのでそれ以上飲みたいと思わない。味気ないため多くは飲まない。これもまたいいことだ。
 熱湯は二段階で来るようで、水道管の都合だろう。日の当たっているところが二カ所あるはず。そのため、すぐに熱湯は収まるが、そのあとまた熱いのが来る。そちらの方が長い。その間に洗い物などをすれば汚れが落ちやすい。また食器だけではなく、衣類も洗えそうだ。熱い湯で洗うと落ちがいいはず。
 そんなことを思いながら上田は生暖かい程度の水が出るまで待ち、コップに水を満たし、さっと飲むのだが、半分も飲めない。薬を飲むとき使う水程度だろうか。これで十分かもしれない。それ以上飲むと生暖かい水だけに気持ちが悪くなる。
 コップに水を足してから仕事場に戻る。仕事中に飲むのは水だけ。それも一口程度でいい。水なら飲み残しても問題はない。それに安い。
「水が一番美味しいと?」
「いや、美味しいとかの次元を越えた飲み物です」
「ほう」
「まずは癖がない。昔の水道水は消毒臭くていけなかったが、最近のはよくなっています。癖がない。味もないが」
「味気ないでしょ」
「だから、水なのです」
「水くさいというやつですね」
「臭くはないですよ」
「それで水ばかり飲んでいると?」
「喉が乾いたときはね」
「いつからですか」
「胃腸を壊したことがありましてねえ。薬の副作用でしょ。胃が荒れました。そのとき一日三度薬を飲んでいたのですが、当然水で飲んでいました。ただの水道水」
「はい」
「まあ、普通に水は飲んでいるでしょ。だから、珍しいことはありませんが、一日三度コップの水を飲んでますとね」
「どうなります」
「薬よりも効くんですよ」
「え」
「調子が悪いときでしてね。だから医者からもらった薬を飲んでいたほど。しかし、飲んだ瞬間効くのです」
「薬はそんなにすぐには効かないでしょ」
「だから、水なのです。水を飲んだ瞬間、楽になるのです」
「ほう」
「それからですよ。もう医者からの薬をやめて、薬抜きで水を飲みました。すると、悪かった体調が徐々に治りました」
「水が効くと分かっていたからですか」
「知りません」
「ほう」
「それからは水が一番だと思うようになりました。ただしガブガブとは飲みませんが」
「なるほど」
「水は冷やしても温めても駄目です」
「生水は身体に悪いと聞きましたが」
「ガブガブ飲むからですよ」
「しかし、安上がりですねえ。水が一番とは」
「いえいえ」
 
   了




 


2018年7月26日

小説 川崎サイト