小説 川崎サイト

 

苦しいとき


「体調が悪くてねえ」
「この暑さですから」
「いや、お盆近くはもう大したことはありませんよ。それでも影響がありますがね。ところがです」
「どうかしましたか」
「体調が悪かった翌日は元気なんだ。快適、快調、いい感じに戻っています。まあ、もの凄く元気になったわけじゃなく、まずまずというところですが」
「じゃ、回復したのでしょうねえ」
「そうなんですがね。ここに私は見出しました」
「ほう、何を」
「しんどいとき、何ともならなかったので、寝ていてもよかったほどですが、あのとき仕事をしていたのです」
「そんな状態で仕事を」
「体がです」
「体力を使うでしょ」
「体が直そうと仕事をしていたようなのです」
「はあ」
「だからしんどい」
「そうなんですか」
「だからしんどいとき、体調が悪いときは、修繕中、整備中だと思えば、これはいいことなんだ」
「いや、それは弱っている証拠です」
「いや、治そうとしている証拠なんです。だから健康なんだ。回復モードが機能しているのですからね」
「まあ、そうとも受け止められますが」
「だから二三日しんどいときは、治ってから、次にしんどくなるまで結構持ちます。二三日も掛かったのですからね」
「お薬とかは」
「それで元気になるとまずいでしょ。回復していないのに、元気な状態では」
「そうとも考えられますが」
「さて、そこでです」
「まだ、ありますか」
「苦しいときは何かをやっているわけです」
「確かに努力しているとき、頑張っているときは苦しいですねえ」
「そうでしょ」
「それが今日のお話ですか」
「そうです」
「はい、分かりました」
「理解できましたか」
「何にでも当てはまらないでしょ」
「それは分かっているのですがね。それは受け止め方の問題なのですよ。だから苦しさをどう受け止めるかで苦しさが違ってきます」
「苦しさが快感になりますか」
「なりません。苦しいままです。それに苦しまないとよくなりませんからね。楽ばかりしていると、何も身につきませんよ」
「はあ」
「まあ、人が見て苦しいと思えるようなことでも本人は楽しかったりすることもありますがね」
「うーん」
「だから、苦しいときは安心なのです」
「でも苦しいのでしょ」
「はい、苦しいです。しばらくは」
「私なんて、ずっと苦しい」
「御病気でしたか」
「いや、生きているのが、ずっと苦しい。苦しいだけですよ」
「それじゃ、慣れてしまうでしょ」
「そうなんですがね。しかし、あなたの話は少し強引で、楽天的すぎやしませんか」
「はい、そこが苦しいところです」
 
   了


2018年8月17日

小説 川崎サイト