小説 川崎サイト

 

神輿


 その派閥は小さい。主流派の五分の一もない。しかし、その他の派閥が加われば主流派に迫ることができる。その計算があるので主流派は楽観できない。
 主流派の幹部が同じ主流派の高梨という男を訪ねた。
「楽観視できないと」
「そうです」
 高梨はドキッとした。
「絶対多数でしょ。安全圏でしょ」
「先ほども説明したしたように他の派閥が相手側に付くと、大きな派閥になります」
「しかし、烏合の衆」
「派閥の人数だけではなんともしがたいことになります」
 小さな派閥を引き連れている宮崎は突破力のある実力者、この切っ先に勢いがある。主流派に立ち向かえるのは、この男しかいない。そのため、主流派がぐらついたとき、担ぎ上げられることが多いのだが、あくまでも切っ先、つまり切り込み隊長のようなもので、役目はそれだけ。この宮崎の天下になるわけではない。
「それで僕にどうせよと」
「分かっているでしょ」
「はあ」
 宮崎が立ち上がった場合、他の派閥が加わっても、まだ半数には満たない。そうなると……
「僕は転びませんから、大丈夫です」
「お願いしますよ」
 こうしてこの幹部は転びそうな者を先回りして、念を押しまくり歩いた。
 宮崎派が主流派に迫る勢いがあった場合が怖いのだ。何が起こるか分からない。最大派閥とはいえ、数が多いだけに、宮崎に好意的な主流派の人間もいる。それだけではく、他の派閥が宮崎に与した場合、そこからの誘いもある。
 ただ、宮崎に勢いがなければ、他の派閥も乗ってこない。
「宮崎さん、今回はどうでしょう」
 側近が心配して聞く。
「仕掛けたのは誰だろう」
「吉原派の中田じゃないかと思います」
「中田が船頭か」
「はい」
「じゃ、吉原は天下を狙っているのだな」
「そうです」
 この少数派の宮崎、自分から打って出たことは一度もない。主流派以外の者が打って出るとき、宮崎がその先鋒になり、神輿になる。だから見た感じ宮崎が大将のように見えるがそうではない。
「まあ、やってみるよ。私にはそんな欲はないからね」
「問題は主流派を崩さないと勝てません。迫るだけです」
「それだけでいいんじゃない」
「まあ、頑張って崩しにかかりましょう」
「しかし、私にはそんな欲はないよ」
「担がれたまま、降りなければいいのです」
「まあ、やってみますよ」
「そうしましょう」
 結果的には他の派閥が今ひとつ乗ってこなかったため、宮崎は単独での戦いになった。
 裏で仕掛けた主流派に次ぐ大きな派閥の吉原派の中田が失敗したのだろう。
 
   了


2018年8月29日

小説 川崎サイト