小説 川崎サイト

 

提督の決断


 雨がパラパラし始めた。ぽつりぽつりと降り出した。山田は傘を差そうかと思ったが、この程度ならまだいいと、そのまま自転車を漕いだ。傘は自転車に突っ込んでいるので、いつでも差せる。
 秋の雨。少し冷たいが、まだ夏の終わり、昼間は暑いと感じることの方が多い。しかし夏の薄い衣服なので、濡れ出すと一気。
 しばらく走っていると、徐々に降りがきつくなってきた。それでもまだ大丈夫。
 さらに行くと、もう目的地が見えてきた。このまま一気に早く漕いで濡れる時間を縮める方がいい。傘を差すには自転車を止める必要がある。サドルの下と後輪の隙間に差し込んであるので片手だけだと引っかかるため、引っ張り出すのは無理。
 しかし雨はザーと音で聞こえるほど強くなっている。パラパラのときは音はない。このザーザーは何かに当たって音を立てているのだろう。今、傘を差せばビニール傘のパンパンという音に変わるかもしれない。傘にも音色がある。張った音もあれば、弾力性のある柔らかな音も。
 目的地はもうすぐ、そこに着けばもう濡れなくてもいい。しかし降り方が結構強く、かなり濡れだし、衣服の色が変わりだし、冷たいものが肌に来た。これが真夏ならいい感じかもしれないが。
 どうせ濡れたのだから、ここで傘を差してももうあまり濡れ方は変わらない。だが今ならまだ半びしょで、びしょ濡れではない。その差は大きい。
 目的地に着いた後、乾く時間に関わる。半びしょとびしょ濡れとでは時間が違う。しかし自転車を止め、傘を抜き取り、傘のひもを外している間に着いてしまう。それと自転車に挟んでいたビニール傘はくっついているはずなので、一気には開かない。
 狭い道。後ろから後続の自転車や車も来ている。だから止まりにくい。
 どうせ濡れている。
 山田はスピードを上げることで、濡れを少しでも抑える選択をした。まるで連合艦隊の提督のように決断した。
 雨が顔に当たり、目の中に入るので、細めた。作戦は成功したとも失敗したとも、どちらとも言えないような結果になったが、反省するとすれば、雨がパラパラし始めたとき傘を差せばよかったのだ。
 こういうことは何度もあったのだが、パラパラ程度ではほとんど濡れないこともあったので、必ずしも提督の決断が間違っていたとはいえない。
 
   了

 


2018年9月12日

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