小説 川崎サイト

 

謎が解けた


 世の中の秘密が分かり、また宇宙の秘密が分かり、生命の謎が解明しても、家賃三万五千円を払わないといけないという事実は解決しない。この時代、安い物件だが、そんなところにしか住めないという状況も解決しない。
 滝田はコミュニケーションの極意を会得しても、やはり家賃三万五千円は払わないといけない。家主と素晴らしい人間関係を築けても、家賃は待ってくれない。
「どうですか滝田先生、最近」
「ここ最近いろいろな謎が解けてねえ、目からうろこが百枚ほど落ちたよ。まあ既に解けていることを知っただけで、私が知らなかっただけなんだよ」
「最近はどのような」
「古代の謎だね。意外と縄文人が素晴らしい活躍をしておって」
「他には」
「縄文文化がねえ」
「他には」
「人類の始まりが」
「他には」
「いろいろとあるけどねえ。遺伝子とは自分のことが記された本なんだよ。自分というのは実は遺伝子のことなんだ」
「他には」
「うーん。君が好きそうな話ねえ。どんな話がいい」
「この前、貸したお金なんですが」
「ああ、それか」
「まだですか」
「少し待ちたまえ、今、ベストセラーになるような本を書いている最中だ」
「そういう依頼が」
「ない」
「じゃ、持ち込みで」
「そんなことはせん。自分で出す」
「自主出版ですね。でもお金が掛かるでしょ」
「いや、電書だ」
「はあ」
「だから、待ちたまえ」
「電書では絶対に無理なようなので、今日はもう帰ります」
「そうかね。悪かったね。今度来たときは用意しておくよ」
「よろしく」
「うむ」
 滝谷にとり、家賃三万五千を払えないというのは、謎でも何でもない。まずはそこから解いていくべきだろう。
 
   了

 


2018年9月20日

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