小説 川崎サイト

 

コスモス


「コスモスが咲いていましたよ」
「おお、それは秋らしくていい。曼珠沙華も突然咲き出すでしょう」
「彼岸花ですね」
「この二つが咲けばもう立派な秋」
「あとは」
「松茸」
「それは流石に見かけません」
「キノコは見かけるでしょ」
「はいはい、道端とか、庭とかに、いきなり出てます」
「しかし、スーパーとかへ行けば松茸は見られますよ。夏頃から既に売られていますがね。だから、季節物としてはちょと合わない」
「輸入物かもしれませんねえ」
「そうかもしれん」
「ところで、コスモスは何処で見かけましたか」
「ここへ来るときに道から見えていました」
「何処に」
「あれは何でしょうねえ。畑でもないし、庭でもないような」
「ほう」
「家庭菜園でもない。まあ、農家の土地なんでしょうが、狭い。その横は稲です。米です。だからその田んぼの隣りにある余地のようなものなのですが、中途半端な場所でしてね。宅地として売るには狭すぎる。水田にするには狭すぎる。だから畑なんでしょうが、荒れています」
「他に何か植わっていますか」
「ネギでしょうか」
「ネギ」
「これは一つだけある畝に植えられています」
「じゃ、ネギ畑にしては小さい。売り物じゃない」
「はい」
「他には」
「横に水田との仕切りにコンクリートの低い塀のようなものがあります。低いですよ。これは水田の水が入ってこないようにでしょうか。その縁に背の低い物置があります。農具入れでしょうねえ」
「他に植わっているものは」
「よく見かける花が咲いていましたが、忘れました。ああ、思い出しました。蓮でしょうか。いや、レンコンかもしれません。葉っぱの大きなやつです。カエルが傘にしそうな」
「その周囲は」
「新興の住宅地です」
「昔からの?」
「最近でしょうねえ。昔は田んぼでした」
「じゃ、その農家が売ったのかもしれませんねえ。それで売るには中途半端なその畑のようなものが残った。売る気だったので、もう畑などやる気がない。放置していると、花畑のようになったが、植えたものじゃない。しかし、毎年出てくる草花があるのでしょうねえ」
「そうなんです。そこだけが未整理で、曖昧で、上手く説明できな場所です」
「そこでコスモスが咲いているのを見たと」
「そうです。僕が見た限り、ここのが一番早い」
「そのコスモス、咲いているだけなんでしょ」
「そうでしょうねえ。栽培しているとは思えません」
「しかし、そういう場所で咲くコスモスが一番早かったと」
「それが何か」
「目立ちますねえ」
「早いですから。ああ、もうコスモスの季節かと思いましたよ」
「本当にコスモスでしたか」
「間違いありません。去年も、その前の年も見ました。それと葉がモヤッとしているので、これは分かります」
「色は」
「うっすらとした赤です。ピンク色」
「桜色でしょ」
「ああ、そうです」
「だから、秋の桜と書いて、秋櫻」
「ああ、なるほど、豆知識」
「いえいえ」
「次は彼岸花ですなあ」
「春と秋は似ていますが、春は上り坂、秋は下り坂」
「そうですねえ」
 
   了


 


2018年9月22日

小説 川崎サイト