小説 川崎サイト

 

決められない人


「最近どうですか、どの方向へ行くか、決まりましたか。そうでないと進めないでしょ」
「まあ、すぐに決めなくても」
「結構長いですよ。立ち止まってから」
「いや、いろいろと考えている」
「考えすぎじゃないですか」
「決定するとね。それになってしまう。それが惜しい」
「はあ」
「四分六だ」
「じゃ、決まっているじゃないですか」
「気持ちの半分はそっちへ傾いているのだがね、半分に満たないが、四分は同意していない」
「しかし、それで体勢は決したのと同じでしょ」
「競い合えばそうなる。しかし競う合うようなことじゃない。どちらも私の中にある。その四分の反対が怖いわけじゃない。四分でも三分でも一分でもいい」
「四分六なのですから、迷う必要はありませんよ」
「しかし六分の方を実行すると、私はそういう人に見られてしまう。それが嫌なのだよ。それに六分の方を進めば、四分の分は無視する。まるで敵のようにね。そうしないと矛盾するから」
「一体何を恐れているのですか」
「六分を選んだ場合、私は四分を敵に回してしまう。しかし、私の中にも四分の要素がある。ここが苦しい。否定しているわけじゃないからね。四分もあるんだから」
「そんなことを考えていたのですか。それで動けないと」
「いや、決定したくない。結論の出ない問題なのでね」
「いつ頃決定しますか」
「これは決着が付かない」
「え」
「私はこんなことに合っていないから、君に譲るよ。決定権を」
「じゃ、先輩はどうされるのですか」
「降りる」
「優柔不断だとは聞いていましたが、凄いですねえ」
「何でもかんでも決めてしまってはいけないんだ」
「しかし、決めないと動けませんから」
「そうだね。私にはできない。だから、君がやりなさい。おそらく私の選択と同じでしょ」
「はい」
「じゃ、先輩はこれからどうするのです」
「さて、どうするか」
「それも決められないのでしょ」
「ああ、そうだね。やめてから考えよう」
 しかし、この先輩、やめてからもすぐにリーダーとして担ぎ上げられた。
 何も決められないリーダーだが、リーダーが決めない方が都合がよかったりするためだろう。
 
   了




2018年10月24日

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