小説 川崎サイト

 

謎の人物


「田代さんはお元気ですか」
「ああ、田代さんねえ、先日お会いしましたよ」
「あの人、どういう人なのです」
「何かありましたか」
「いえ、いろいろとお世話頂いたことがあのですが、よく分からない人ですねえ」
「そうなんですか」
「何処の組織にも所属していないようですし」
「以前は大手にいましたよ」
「そこから独立して?」
「そうです」
「今は何をされているのですか」
「さあ、遊んでいるんじゃないですかね」
「はあ」
「しかし、いろいろと面倒を見てもらいましたし、人を紹介してくれましたし、相談事にも乗ってくれました」
「でも一瞬でしょ」
「い、一瞬とは」
「ずっとじゃないでしょ」
「そうですなあ。最近は順調なので、田代さんにすがる必要はなくなりました」
「だから、一瞬です。ずっと一緒じゃ、喰われますよ」
「そうなんですか」
「ただ、美味しい場合ですがね」
「うちはまずいので、喰わないでしょ」
「まあ、こちらもそうですが、困ったときの田代さんです」
「田代さんの本職は何でしょう」
「さあ、コンサルでしょ」
「いや、コンサルなら、もっと請求するでしょ。礼金は払いますがね。それじゃ食べていけないでしょ」
「さあ、コンサルにも色々ありますが、それが職業になると、駄目なんじゃないですか。仕事になりますからね」
「じゃ、田代さんは仕事としてやっていないと」
「遊びでしょ」
「じゃ、どうやって食べているのです」
「それは謎ですが、身なりはいつもいいですよ。ただスーツ姿は見たことはありませんが」
「うちに来て欲しいと考えたことがあります」
「僕もそうです」
「しかし」
「そうなんです。しかし、なのですよね。雇いきれないです」
「そうですねえ。使えない」
「逆に僕らが使われてしまいます。それにその気は田代さんにはないでしょ。大手にいた頃、それで辞めたようなものですから」
「使われるのが嫌なのですね」
「さあ、それは分かりませんが」
「コンサル以外で、何かなされているのでは」
「それはありますねえ。多方面で顔がきくのはそのためでしょ」
「田代さんには部下はいますか」
「いません。見たことはありません。誰かと一緒に来られたこともありますが、部下ではありません」
「肩書きはどうなっていました。あ、名刺には何も書かれていませんでしたね」
「肩書きのない名刺。わざわざ肩書きを言わなくてもいいわけでしょ。名刺としては最高ランクです」
「または、ないのでは」
「よく分からない人ですねえ」
「そういう人がたまにいるものですよ」
「そうですねえ。その実態を知れば、なーんだと思うかもしれませんがね」
「そうです」
 
   了



 


2018年11月27日

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