小説 川崎サイト

 

不思議話


「それは何処にあるのですか」
「この世の何処にもありません」
「じゃ、存在しないじゃないですか」
「想像上のものですので」
「しかし、それが作動していると」
「影響しています」
「この世にはないのでしょ」
「はい」
「じゃ、あの世ですか」
「あの世は存在するかもしれませんよ。そしてあるものとして扱う場合もあるでしょ」
「葬儀とか」
「そうです。あの世はあるかないかは分からない」
「それで、その話なのですが」
「はい、その話もそれに近いのですが、あの世のようには普及していません。誰もあるとは思っていない」
「それが作動していると」
「そうです。たとえば宇宙」
「それは存在しているでしょ。地球も宇宙の一部」
「宇宙からの影響とかです」
「それは日常的に影響しているでしょ。太陽とか月とか」
「それは見えていますので、分かります。存在がしっかりとね」
「では、いったい何のことでしょう」
「出所は分かりません。しかし、影響しています」
「どんな」
「それが分かりにくいのです」
「まあ、世の中には不思議な巡り合わせとか、そういった謎のままの現象があるので、その一種ですね」
「そういうことです」
「しかし、そんな原因も出所も分からないものが作動し、影響を与えていると、厄介ですねえ」
「昔から、その存在をいろいろな言葉で言い表しています。そのため、陳腐な話になります」
「陳腐ねえ」
「そうです」
「それで、何が分かるのでしょうか」
「目に見えないもの、しかも感じることもできないものが作動しているということです」
「それは聞きました」
「作動していること自体が分からない。あとで考えると、思い当たるようなことでもない。特別な現象ではないためです。あるべきものがあるべきようにあるように。それでは神秘的じゃないでしょ。全て因果内で、分かっている世界です」
「じゃ、そんなものはないのでしょ。凄い現象が起こったわけじゃないのですから」
「そこが巧妙なところなのです。本当の詐欺師に遭った場合、欺されたことさえ一生気付かないもの」
「そんな話をするのは、何か魂胆があってのことでしょ」
「いえ、ありません。ちょっとした雑談ですよ」
「じゃ、怪しし物は売らないと」
「はい、売りません」
「その存在を説明することもできないのでしょ。それがたとえ作動し、影響を与えていたとしても、本物の詐欺師に遭ったように、気付かないわけでしょ」
「気付きません」
「じゃ、そんな話を聞いても、聞かなくても同じでしょ」
「いえ、そういう存在しない存在があるということです。これを知っているだけでも充分かと」
「あなた、ただ、そういったややこしいことを話したかっただけじゃないのですか」
「分かりますか」
「はい」
「それ以上、詳細を聞きたいと思いませんか」
「思いません」
「いくらか支払いますよ。聞き賃を」
「いや、その話には乗りません」
「不思議な話はお嫌いですか」
「嫌いではないが、漠然とした話は疲れますので」
「それはどうも失礼しました」
「いえいえ」
 
   了






2018年12月11日

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