小説 川崎サイト



成功の法則

川崎ゆきお



 成田は成功研究家として成功していない。それは自らの成功哲学によるもので、世間の評価ではなく、自分の評価だった。
 世間も彼を成功者グループには入れていない。
 成田は世間の評価と自分の評価が合致したことで、ある意味成功した。
 この、ある意味の中身こそが成田成功哲学の真骨頂だった。
「成功者の話は役立たないでしょう」
 久しぶりに成田は取材を受けた。無料でボランティアのような真似はしない。喫茶店で一時間いくらの取材料金を取っている。
 もうこれだけで、成田がどこから収入を得ているのかは明らかだ。
「成功談は参考になりませんか?」
「自慢話を聞いても仕方がないでしょ」
「成功するだけの何かがあると思うのですが、その何かが参考情報にはなりませんか?」
「君は、結構突いて来るねえ」
「成田先生の成功哲学を知りたいからですよ」
「僕は成功研究家でね。成功の方法を語るプロじゃない」
「では、先程の質問に戻りましょう。何が成功に導いたのかを、成功者に聞くのは悪いことではないでしょ?」
「僕も研究者です。いろいろな成功者の話は聞いていますよ」
「では、一体なんだと思います?」
「特殊なケースなんですよ。知り合いがいたとか、美人だとか」
「はあ?」
「まあ、極端に言えば、そんな感じですよ。一般人には通用しないケースです。まあ、運がよかったんでしょうね」
「でも、たゆまぬ努力とか、夢を追い続ける精神力とかもあるでしょう」
「それは一般化できますがね、それなら誰でも成功できるじゃないですか。だから、成功術ではないでしょ」
「つまり、成功者は成功術を使っていないと」
「そうです。そんな臭いもの使いませんよ」
「成功の秘訣は運だとしても、運を開いて行く力が成功力ではないでしょうか」
「その力って、さっきのたゆまぬ努力云々と同じでしょ。誰でもやっていることでしょ」
「では、秘訣はないのでしょうか」
「秘訣を使った人は、一瞬成功する場合もありますが、すぐに戻ってますよ。一時の成功は後遺症が残ります」
「では成功者とは何でしょう」
「成功していると思われていない人ですよ」
「それが成田成功哲学なんですね。つまり、成功していないことが成功なんですね」
「成功と言う概念を削除することですな」
「どうすれば」
「まだ、続けますか?」
「はい」
「じゃ、追加料金」
 
   了
 
 



          2007年6月20日
 

 

 

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