小説 川崎サイト

 

ある同盟


「昨年は如何でしたか」
「穏やかだったのう」
「例年になく?」
「特に特徴がない」
「平穏だったのですね」
「去った年を思うこともなく、来る年の気負いもない。何か去年はどうの、今年はどうのと思いたいのじゃが」
「しかし、事態は動いております」
「そうか」
「田村家の動きが怪しいのです」
「ほう」
「岩村城に兵を集めております」
「岩村といえば、国境から離れておるじゃろ」
「そうなのですが」
 これが国境の砦に兵を集めているのなら問題だが、そこからは離れている。
「間者によりますと、国境の砦までの道が整備されているとか」
「ほう」
「軍事路です」
「それは穏やかではないな」
「それに岩村城の兵は傭兵です」
「金の掛かることを」
 この時代の兵は、ほとんどが農民。いざというときは、そこから兵を集める。戦いのあるときだけ。しかし傭兵は金が掛かるが、すぐに動かせる。
「こちらも、国境の城に兵を集めましょう」
「その前に岩村城の様子を探る方が先だろう。こちらが国境に兵を送ればすぐに分かってしまう。敵が奇襲してくるのなら、知らぬ振りをしておる方がいい」
「それでは手遅れです」
「では国境の城に近い城に兵を集めておけ」
「はい、それがよろしいかと」
「しかし、百姓も暇ではない。こちらも兵を雇うか」
 戦闘だけのための兵はいるにはいるが、数が少ない。ずっと雇っていると金が掛かるためだ。
 武士は戦闘のためにいるようなものだが、それだけでは少ない。指揮をとるだけで、実際に戦うのは足軽。
 岩村城を探っていた間者からの報告が早速届いた。
 岩村城は本城から離れているのは、城下に軍施設を置きたくないためだ。それで岩村城に集めているとか。軍事のためだけの城のようなもので、城下は兵の宿舎や武具職人などが住んでいる。軍事基地のようなもの。そこから国境の砦までの道が整備され、軍の移動が素早くなっている。砦の兵は僅かなので。
「やはり道を整備したのは臭いのう」
「そうでしょ」
 国境は敵は砦程度だが、こちらは城塞。規模が違う。緒戦では有利だろう。敵はそれを補うため、道を舗装したものと思われた。
 お互いに攻め込む意志は最初からない。考えてもいない。しかし、状況次第では、仕掛けてくる。
「田村家は立花家と戦闘状態になっております。兵の大半はそちらへ使っております。まだ小競り合いですが、田村家の兵が減ったところが付け目かと」
「それで足軽を雇い、岩村に兵を集め、道を整備し、用心しておるのじゃな」
「おそらく」
「田村が弱ったところを狙うか」
「はい、兵を集めておきます」
 ところが、田村家は小競り合いに勝利し、その敵の城を奪った。領地を広げたのである。
「今だな」
「攻めますか」
「うむ」
 田村家は小競り合い後、敵国へ突っ込んだため、岩村城の兵も動員してしまったのだ。それに勝ったとはいえ、兵も消耗した。数も減った。だから、狙い目と判断し、国境を越えた。
 その寸前に田村家から使者が来て、同盟を言いだした。互いに領土を広げようという誘いだ。
「外交できたか」
「はい」
「受けるか」
「それがよろしいかと」
 この同盟、意外と長く続いた。隣国同士だけに、物騒な相手をお隣に置きたくなかったのだろう。
 
   了



2019年1月5日

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