小説 川崎サイト

 

初夢合わせ


「初夢は何を見ました?」
「もう大分前ですねえ」
「でも幾夜の中でも、初夢は起きたとき、覚えているでしょ。またはどんな初夢だったのかを、チェックするんじゃありませんか。一番注目すべき夢でしょ。一年の中でもね」
「元旦の夜に見たものですか?」
「二日の夜でもかまいません。これはサブというか、予備というか、見なかったとき用に二回チャンスがあるのです。また二日続けて見た場合、いい方を選べばいいのです。しかし、元旦、その日を過ごした後に見る夢の方が区切りがいいでしょ。元旦の朝に見た夢は去年の分です。夢は昼間の印象を多く残しています。元旦の朝では去年の昼間ということになります」
「確かに見ましたが」
「元旦の夜に見た夢ですか」
「そうです」
「では二日目の朝に思い出した夢ということになります。それで結構です。覚えておられますね」
「はい」
「じゃ、予備は使わなくてもいいでしょ。それで、どんな夢でした」
「福助」
「ほう、それは縁起がいい」
「それが、気持ちの悪い夢でした」
「ほう」
「使っていない奥の座敷があるのですが、襖を開けると、そこに福助がずらりと並んでいるのです」
「大きな頭で、背が低く、髷を結っており、裃袴で座っている姿ですね」
「それが大勢ずらりと並んで座っているのです」
「ますます縁起がいい夢です」
「よく見ると、子供ですねえ」
「座敷童子のようなものです」
「その後ろに招き猫が寝転がっていました。何匹も」
「おお、招き猫。これは客を招く縁起物です。あとは宝船でも浮かんでいればいいのですが、座敷じゃ無理ですね」
「福助は半眼で薄笑いしていました。目は笑っていません」
「ん、何としたことでしょう。で、猫は」
「猫はそういうのとは関係なく、寝ていました」
「招き猫でしょ、座って手で招いていませんでしたか」
「座っているのもいましたが、眠いのか、左右に身体が揺れていました」
「大量の福助と招き猫。これは」
「これは、駄目でしょ」
「はあ」
「多すぎるし、福助の顔が怖いし、猫も招くのをサボっているし」
「そうですなあ。数が多いといいというものではない」
「そうでしょ」
「それで夢は何処で終わりました」
「はい、福助が立ち上がり、相撲を取り始めました。何人もいますので、座敷のあちらこちらで土俵を作り」
「初場所ですなあ。それで猫は」
「猫がいるところでも相撲が始まったので、寝転がっていた猫も起きて、福助達の周りをぐるぐる回り始めました。もの凄いスピードで。それが土俵のように見えました。
「土俵猫ですな」
「それはどういう縁起ですか」
「米俵なら分かりますが、土俵でしょ。これはありません」
「しかし、裃袴の福助の相撲を見ていると、行司が相撲を取っているようにも見えました」
「そのあと、どうなりました」
「最初は相撲だったのですが、蹴ったり殴ったり、頭突きや肘打ちをかましたりして、着物ははだけ、もう乱闘です」
「猫は」
「猫は巻き添えを食うので、飛び上がって、家具の上に避難していました」
「そのあとは」
「あのう、私が」
「私がどかしましたか」
「その福助達の中に入って投げ飛ばしました。何せまだ小さな子供程度の体格しかないので、楽勝でした。それで、全部福助をやっつけました」
「ほう。で、そのあとは」
「そこで終わりです」
「んーん」
「どうですか。この夢」
「縁起物を倒したとなりますと」
「いい夢じゃないと」
「いや、夢の中の成り行きが大事なのではなく、福助が出てきた夢を見ただけで、いい夢ですよ」
「あとで思い出すと、気味の悪い夢でした。福助を退治したので、これは今年、福に恵まれないと思い、忘れるようにしましたが、まだ、今も思い出せます」
「福助の夢を見たのですから、吉です」
「それから」
「まだあるのですか」
「二日の夜。また同じ夢を見ました」
「ほう、どんな」
「私が福助になり、座敷で座っているのです。そして何がおかしいのか、ニタニタ笑っていました」
 
   了





2019年1月9日

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