小説 川崎サイト

 

暖かくなる話


「寒いですなあ」
「いや、今日は暖かいです」
「え、寒いでしょ」
「ところが暖かい」
「大金でも入って懐が暖かいとでも」
「大金よりも懐炉を懐に入れた方が暖かいです」
「じゃ、今日は入れていると」
「入れてません」
「じゃ、何故暖かいのですかな」
「さあ」
「鈍りましたか」
「まだ、大丈夫。感覚は正常」
「じゃ、どうして暖かいのですかな」
「考えてみました」
「はい。結果は?」
「先ず体調がいい」
「ほう」
「寝不足ではない」
「それで」
「それが原因です。これだけで暖かい」
「じゃ、今までは体調が悪くて、寝不足だったのですかな」
「そうです。だから着込むよりも、そちらを改善した方が暖かい」
「強い目の哺乳類のようですな」
「哺乳類の特性を活かすのです」
「しかし、熱があるんじゃないのですか」
「平熱です」
「ほう」
「それと足腰がよくなった」
「健康のため、歩いているからでしょ」
「階段を上るとき、足が鈍くなるのですがね。それがない」
「やはり歩くのは大事だ」
「歩いてません。これも体調が戻り、睡眠時間をたっぷり取れば、階段でも足は重くならない」
「そんなものですか」
「はい」
「私は貧乏で震えておりましてな。大金さえ入って来れば、解決します。寝不足でも、体調が悪くても、懐です。懐。ここさえ暖かければ、問題なし」
「じゃ、今、大金があれば、寒さが緩和すると」
「します、します。裸でも過ごせますよ」
「なるほど、人それぞれ」
「朝、起きたとき、寒いでしょ」
「まあ、寒いですよ。冬ですから」
「ところが冷たい水で顔を洗うと暖かくなります」
「顔から熱が出るんじゃないのですか。冷たいので、危険だと感じて顔熱を上げているとか」
「さあ、それは分かりませんが、まあ、寝起き、顔を洗うのが気持ちがいい」
「私は普通の冷たいです。湯沸かし器の湯で洗うほどでもないので、普通に水道の水を手で受けて、それで洗いますが、それほど気持ちがいいものじゃないですよ」
「それと、目がおかしいとき、水で目を洗うと治ります」
「余計に染みたりしませんか」
「そういうときもあります。水が目に入ると、痛くなり、涙が出てきて、止まらなかったりも」
「目医者に行かなければ」
「そうですねえ。しかし、何ともない日もあります」
「私は最近、踵のない靴を履いています」
「あ、そう」
「これはですねえ」
「もういいです」
「私の話も聞いて下さいよ。踵のない靴の方がですね。いいのですよ」
「それなら下駄を履けばいい」
「音がねえ」
「冬は長い目のズボンを履くのがよろしい。裾が靴まで掛かり、地面にまで来るような。これで足首がどれだけ暖かくなるか、一度やってみなさい」
「わたしは」
「何かありますか」
「えーと、思い付きません」
「無理に言わなくてもいいですよ」
「そうですなあ」
 
   了

 


2019年1月28日

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