小説 川崎サイト

 

文芸


 晴れた日の何でもない風景が続いている。それは何でもなくはないのは曇りや雨の日もあるため。しかし、雨でも何でもない雨、何でもない曇り空なら特に言うほどのことではないだろう。
 田代は久しぶりに風景を見ている。それがいいものだと感じるのは気持ちの問題。流感が流行っているとき、田代もいち早く流行に乗ったのだが、いち早く治っている。今日ははっきりと治ったことが分かるのか、それで風景が新鮮に見える。風が強いのか空気のよどみがなく、遠くまで鮮明。これは目が悪いときは、その鮮明さは二の次になる。今日は目がいいようで、見通しがきくし解像力も高い。遠くの小枝の雀が見えるほど。しかし、どんな顔の雀かは分からないが、どの雀も同じような顔をしているので、見分けられないだろう。
 昨夜風邪に効くと言われているニンニクを食べたためだろうか。ニンニクを焼いて囓ったのではなく、餃子に入っていた。匂いで分かるが、それほど量は多くない。
 風邪は治りかけていたのだろう。今日は気分がいい。これは珍しいことだ。何かやりたいとか、遠くへ行きたいとか、積極的になる。
 風景の中に踏切が入ってきた。閉まっていないので、サッと渡る。線路の彼方に駅が見える。遠くまで行くにはそれに乗るのが早い。しかし駅まで少しある。見えているがそのつもりで来たのではないので、遠回りになる。
 踏切からは駅は見えているのだが、線路は通れない。これはストでもして止まっていれば別だが、そんなところを普段は歩かない。線路の上を通ることはある。電車に乗れば当然だ。ただ直に足で線路を踏んでいるわけではない。また歩きにくい平行棒のような線路の上ではなく、その脇か間を歩くだろう。
 こういうのは歩き慣れることはない。一生の中で歩くことがあるかないかの経験だろう。特に大人になってから線路を歩くなどはほとんどない。電車が事故で止まってしまい、そのとき下りて歩くことはあるだろうが。
 その線路を渡り、右へ回り込んだ角に喫茶店がある。田代が毎日通っている店で。風邪の日と違い、今日は元気よくドアを開けた。
「またやってますねえ」
「はあ」
「喫茶店に入ったということでしょ。ひと言で済みますよ」
「そうなんですがねえ」
「風邪がその後、何かの伏線になりますか。線路がその後、出てきますか」
「出てきません」
「喫茶店に入り、昔の友達と偶然出合い、話の本筋に入るわけでしょ。今度は喫茶店で注文するシーンを長々と書くのでしょ」
「はい」
「そういう余計な描写はしないように」
「余計なことを書く方が楽しいんですがねえ」
「それにキャラが立ってません。風邪を引いて治っただけでしょ。それにこの人、職業も年齢も分からない。性別もです」
「それはあとで足します。それよりも遠くへ行きたいと思っています。線路はその伏線です」
「そんなもの複線も単線もない」
「その線路は最初から複線でしてね。だから複線を張りました」
「モデルになった路線があるのですか」
「ありません。想像です」
「遠くに見えていた駅は何処ですか」
「架空の駅です」
「見もしないものをよく書けますねえ。モデルぐらいあるでしょ」
「そんなの想像だけで小学生でも書けますよ」
「それとジャンル」
「あ、はい」
「この作品のジャンルは何ですか」
「ぶぶぶ文芸です」
 
   了


 


2019年1月29日

小説 川崎サイト