小説 川崎サイト

 

僻地へ


 もうこれでいいのではないかと、浪は思った。ただ思う前にいろいろ考えあぐねてのこと。ふと思ったわけでも感じたわけでもない。いくら熟考しても調べても、最後はそう思えるかどうかで決まる。思った、思いましたでは、小学生の芸のない作文のようだが、ここが最初で最後の決定場所。まずは思わなければ話が始まらない。そして意志の決定も、意志だけでは決まらない。思わないと。または思えなければ。ということを浪は思った。まあ、感じた程度だろう。ただの感性の問題だが、あくまでも熟考の末。
「決まりましたか浪君」
「はい、もうこのあたりでいいだろうと」
「おお、それはよく決心してくれました。礼を言いますよ。有り難う有り難う」
 もし断っておれば、この有り難う有り難うの繰り返しは聞けないだろう。それを聞きたいばかりに判断を下したわけではない。
「少し僻地ですがね。国内ですから、そんなにひどい場所じゃありません。コンビニもありますし、ファミレスも、確かあったと聞いていますよ。今は分かりませんがね」
「はい」
「まあ、また戻れると思いますので、しばらく休憩だと思い、悪く思わないでくださいね」
 この人も色々と思うのだろう。
 浪が決心したのは、この人のいう通りかもしれない。少し疲れたのだ。僻地なので生活が少し変わるが、流人ではない。ただ、ここへ飛ばされた人は本道から外れてしまう。外道ではないが、所謂出世街道ではない。そこを通過して出世した人はいない。これは過去のデータが示しているが、浪はいやいやながら行くわけではなく、また断ることもできた。そこが違う。自ら進んで行くようなものなので。
 出世街道から都落ち街道を歩くわけだが、それも悪くはないと結論を下した。そちらの方が楽、というのがちらっと見えた。美味しい面もあるのだ。出世さえ考えなければ、極楽暮らしかもしれない。
 浪が僻地へ行ったと聞けば、ライバル達は喜ぶだろう。戦う相手が一人減るため、楽になる。
 しかし、よく考えると、小さな世界だ。それが潰れてしまえば出世もクソもない。地位などあっという間に相場が落ちるどころか、消えてなくなる。
 まあ、そういうことに疲れたのだろう。浪は、もうこのあたりでいいかと思い、僻地へ赴いた。
 
   了

 




2019年3月27日

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