小説 川崎サイト

 

役者が違う


 全てが順調にいっているとき、須崎が姿を消した。原因が分からない。色々と揉めているグループだが、須崎が入ってから、それが解決した。上手く仕切ったのだ。新人だが、年嵩。リーダーとしての目配りがきき、言いたいことは結構言っていた。仲間内では禁句になっていることでも須崎なら言えた。これは何が禁句なのかを知らないため。他のメンバーはそれに期待したのだろう。
 それで文句だけは一人前の主要メンバーを黙らせた。長く居座っているだけで大した能力はなく、それが妨げになっていた。これを退治するのが宿願だった。内紛だ。須崎を盛り立て、リーダー格に持ち上げたのはそのため。
 それで揉めていたグループが普通になった。その瞬間、須崎が消えた。
 そのままなら須崎が完全に親玉になっていただろう。仲間もそれを歓迎していた。しかし追い出した連中の残党がまだ残っている。これがいずれ反撃してくるだろう。それを恐れて須崎が消えたわけではない。
 丸く収まったあとのことをよく知っている。しゃしゃり出て余計なことをしてしまった。要するに激動期にしか用がなく、平和になれば邪魔になるパターン。須崎がそのタイプ。
 英雄は去るもの。手柄を立てたものは去るに限る。引き際を心得ているのだが、消えてしまったのだから、引きすぎだ。
 須崎がいなくなっても平穏は続いたが、やがて須崎がやっつけた残党が反撃しはじめた。
 それは須崎が入ったときと状況は同じ。旧須崎派がのさばりすぎたのだ。既に須崎はいないので、まとめ役もいない。だから、なあなあでやっていたことになる。この、なあなあは暗黙の了解の世界。
 旧須崎派は須崎を探し出し、復帰を願った。しかし残党にはそれほど力はない。ただ、平穏ではなくなっている。
 同じ頃、その残党が須崎を訪ねた。
「復帰して頂きたい」
 しかし、須崎によって潰された連中の残党なのだ。
 これで須崎の取り合いになる。
 須崎としては面白い展開になったので、戻ることにした。
 そして須崎は旧須崎派も残党も追放してしまった。
 本来の仕事をせず、文句ばかり言い合い、それで共同戦線を張り、やり合ってばかりいたためだろう。
 それでメンバーがほとんど変わってしまった。
 須崎はそれが最初からの狙いだったのかどうかは分からない。
 
   了


 
 
 


2019年4月10日

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