小説 川崎サイト

 

花より団子


「花見は終わりましたねえ」
「いやいやこれからですよ」
「でも、この雨と風で、残っていたのも全部散ってますよ」
「桜はね。八重桜も散りましたが、これが最後でしょ。里では」
「そうでしょ。終わりですよ」
「ツツジです。次は」
「はいはい」
「それだけじゃない。これからが本番。咲き乱れていますよ。それで私は忙しい」
「いいですねえ。毎日花見とは」
「花見ができる。これはいいことです」
「暇だからでしょ」
「花を愛でる」
「はい」
「これは花を愛でているのではなく、花を見ている私自身を愛でているのですよ」
「のんびり花など見てられるという状態を愛でているわけですか」
「そうです」
「そういう面もありますねえ」
「面も線も点もあります」
「じゃ、花に詳しくなられたでしょ」
「いいえ」
「ち、違うと」
「名前さえ知りません」
「桜なら分かるでしょ」
「それは分かりますが、やっと八重桜との違いが分かったばかりでしてね。あれも桜なんだ。違う木だと思っていましたよ。でも幹に書いてありました。八重桜と。それで木や草の名を知る程度でしてね。でもすぐに忘れますよ。ややこしい名前だと」
「私は花より団子でしてね」
「僕は花よりうどんです」
「花の方がいいんじゃないのですか」
「目には花がいいが、口にはうどんがいい」
「うどん」
「口というより喉元ですかな。あれが通るとき、気持ちがいい」
「噛まないと駄目ですよ」
「少しは噛みますよ」
「私は花より団子派ですが、団子が特に好きなわけじゃない。実質を取りたいということです」
「なるほど、見ているより、腹の足しになる実利を選ぶと」
「そうでしょ、目よりも胃です。ハナよりハラです」
「それもまた結構。私も実利を得たいのですがね。なかなかそういうわけにはいきませんから」
「しかし、団子を食べる程度では実利とは言えませんがね、まあ、腹の足しにはなる」
「そんなところで間食すると、しっかりとご飯が食べられませんよ」
「仰る通り。だから別に団子が欲しいわけじゃないのです」
「よく分からん人だ。団子が好きなはずなのに。それなら花見団子を食べればいい。まあ、花を見ながら団子を食べるのもいいですよ。でも団子を持ち歩かないといけない。茶店でもあれば、団子があるかもしれませんがね」
「食べるとすれば、みたらし団子です」
「あの指がネチャネチャするあれですか」
「焼きたてをあの蜜壺に浸したのを食べるのです。だから焼きたてじゃないと本当のみたらし団子とは言わない」
「語り始めましたね。流石団子派」
「次に好きなのは吉備団子」
「はいはい」
「しかし、普段から団子のことなど考えているわけじゃありません。団子屋でもない限り、そんな人、希でしょ。今日はどの団子を食べるかどうか朝から思案している人など、聞いたことありますか」
「ありません」
「この話はよしましょ。あなた、これから花を見に行くんでしょ」
「紫陽花を見に行きます」
「まだ早いですよ」
「去年枯れてそのままのがまだ残っているのです」
「枯れた花がそのままですか」
「そうです」
「本当ですか」
「ドライフラワー状態で、花玉が残っているのです」
「それは死に花ですね」
「僕も咲かせたいところです」
「でもそれ、死骸ですよ」
「あ、そう」
 
   了


2019年4月27日

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