小説 川崎サイト

 

並の部下


 高梨は人の上に立つ指揮官のようなものなので、多くの人を使っている。といっても本当に動かせるのは数人。その中にはトップクラスの人材もいるが滅多に使わない。使いにくいのだ。そしてよく使うのはナンバースリー以下の部下。
 その中でも吉本をよく使う。何かあればすぐに吉本を使う。まずは吉本にやらせてみるわけだ。それが駄目ならダメモト。ベテランやエース格を投入すればいい。それらは切り札で、ここ一番のときにしか使わない。それに何でもないような仕事で、彼らを使うのはもったいない。
 しかし、ほとんどのことは吉本で間に合う。また吉本が無理な場合、それより力のある人間を使ってもやはり無理な気がする。吉本よりも出来はいいが、結果は変わらなかったりする。
 大事な部下を取っておき、どうでもいいような吉本や、それに近いレベルの人間にさせている。これは使いやすいためだろう。
 だから吉本がここでは一番よく働いている。大した力はなく、並か、並以下。しかし並で間に合うような仕事が多いので、吉本でもできるのだ。
 そのため高梨が一番よく使う吉本が、エース格のように思われてしまった。一番力がある人間だと。そうでないと多用しないだろうと。
 そして長く吉本は多くの現場を踏むことで、ベストスリーの部下よりも経験が豊かになった。だがそれだけの力はない。実用上十分機能する程度。
 ところが世間では一番力のある高梨の部下だと思われるようになる。方々へ出向くため、顔が売れてしまった。いつも見る高梨の部下のためだ。実はもっと力のある部下がいるのだが、滅多に使わない。使うときも吉本でも簡単にできそうなことだったりする。上位の部下ならもっと確実にできる。吉本でもできることなので、さらにできてあたりまえ。
 だから難しい仕事を吉本に与え、力のある部下に簡単なことをさせているようなもの。
 吉本の力は大したことはない。だからよく失敗する。しくじる。しかし吉本なら仕方がないとなる。吉本では力不足なためだ。本来上の部下がやることを吉本にさせているためだ。
 そして、長くその状態が続いた。いくら並の力しかない吉本でも、経験を積むことで、力が付いた。それは並の人間が普通に力を付ける程度で、より上の実力者から見ると、大したことはない。もっと凄い力を持っているためだ。つまり並外れた。
 その並外れた部下が三人以上いる。しかし高梨は大事なことをさせない。それと本当に大事なときは高梨自身が出ていく。だから吉本は露払い。
 高梨からすると、トップスリーや、上位の部下に手柄を立てさせないようにしているのだろう。何故なら、彼らに活躍されると、高梨の地位が危なくなるため。実は部下がライバルなのだ。上位の部下にはランクがあり、序列がある。しかし吉本は序列外。
 しかし吉本ばかり使い続けたため、吉本の株が上がり、今でも上位の三人衆を超えてしまったのである。
 そしていつの間にか高梨の後釜となった。実はこれが狙いだった。子飼いの部下を後継者にできたので、上位の部下達の上に立つ。高梨に代わって。
 そして部下を使うようになる。上位の三人衆も使うことになるのだが、高梨しから学んだのか、実際に使うのは以前の吉本に似たクラスの部下だった。使いやすいためだ。
 高梨よりも優れているのではないかと思える上位の三人は、その後もあまり使われないまま。優れた人間ほど使いにくい。
 
   了
 
 
 


2019年5月20日

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