小説 川崎サイト

 

簾のかかっている空き家


 然一と名乗る僧侶が村に棲み着いた。村の外れに空き屋があり、そこに住んでいる。
 何故かそこにポツンと家がある。夜になると真っ暗。お隣がいないので当然だろう。
 何もない空き屋だが、簾が下がっている。まだ陽射しが強い時期ではない。
 前の住人が忘れたものだろうか、大して値打ちのあるものではない。何処にでもあるよう葦の簾。
 部屋が暗くなるので然一はそれを外し、丸めて納屋に入れた。納屋の中は何もない。数間あるのだが、家具は何もない。
 ところが寝ていると、何かがスーと入ってくる気配がする。まるで風のように。それはまさに空気の塊のようなもので、それが家の中を飛び回っているような感じ。
 夢でも見ていたのだろう。しかし、その感じがどうも気になるので、灯りを点け、家の中を見回すが、何もない。
 そのことを家主でもある豪農にいうと、簾の話になった。
 簾を取り外したことをいうと、それはいけないとなる。すぐに、同じところに垂らさないと、あらぬものが入り込み、面倒なことになると。
 然一は納屋から簾を出し、同じ位置に掛けた。その夜は異変はなかった。
 村人が食事を運んでくれる。その農婦に簾のことを聞くが、昔から、あるらしい。
 この家は村はずれにぽつりとあるが、どうしてかと聞くと、お籠もり堂だと答えた。
 つまり通夜をしたり、遺族が数日間ケを祓うため、そこで寝起きするとか。だが、数年前までの話で、今はそんなことはしなくなったので、ただの空き屋になっているらしい。
 然一は次の夜、その簾を外して寝た。実際には巻き上げた。
 すると、また妙な気配がする。
 これで、簾が魔除けの役目をしていることを知るのだが、一体何が来ているのか、興味を抱いた。
 然一は香を焚いた。しかも色が出る香。まあ、家の中を消毒するようなものだ。部屋中煙だらけになり、しかも色が付いているので、妙な空気に色が付いた。
 すると色の付いていない塊ができた。香がきかないところがあり、それが移動しているのが分かる。
 こいつが入り込んできたやつだろうと思い、杖で突いたり叩いたりして、追い駆けまわした。
 翌朝村人が朝ご飯を運びに来たとき、然一が倒れているのを見る。
 大丈夫かと聞くと、気が付いたのか、目を開けた。
 それからはあの簾をしっかりと取り付けた。
 然一は二年ほどこの村で過ごし、僧侶の仕事をしていたが、寺に元気そうな若い坊主が二人来たので、もう役目を果たしたと思い、立ち去った。
 この村での怪異を、書き記していたのだが、後年、それを読んだ人は、世の中にはそんなこともあるのだろうと思った。思っただけではなく、簾は魔除けになるという噂が広まった。
 
   了



 


2019年5月27日

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