小説 川崎サイト

 

座布団オフィス


「今日の雨は梅雨寒ですなあ」
「そうですか」
「ひんやりする。寒い」
「でも晴れているときは暑いですよ」
「極端なんだよ」
「でも自然現象なので」
「そうだね。リアルにあることだ」
「人にもありますし」
「それは自然かな」
「そうでしょ。感情の起伏のようなものですので」
「感情は起伏するか? 暑くなったり寒くなったり」
「瞬間湯沸かし器のような人もいますよ。起動が速い」
「あれは頭の中の線が切れる恐れがある。そのためかこめかみあたりの血管が浮いておる。あれは切れないように太くなっているんだ」
「そうなんですか」
「それはいいが、季節外れの寒さは何ともならんねえ。これはないものとして、無視すべきだが」
「そうですよ。長くは続きません」
「まあ、一気に夏になるより、こういう戻りがある方がいい」
「そうなんですか」
「今日も雨か。まあ、梅雨なので仕方がない」
「そうですね」
「うむ」
「じゃ、そろそろ仕事を始めましょうか」
「仕事にも冷えた」
「別に冷凍食品を扱っていませんが」
「内容がね。もう冷え冷えする」
「この業界、冬の時代に入りました」
「そうだね。春は来ない」
「社長、手を動かして下さい。止まってますよ」
「そうか、動かしても詮無いがな」
「仕事ですから」
「君はまだ温度があるねえ」
「哺乳類ですから」
「そうか」
「冷えるときは動いた方が良いですよ。身体も暖まります」
「そうだね。ところで、引き継ぐかね」
「え」
「君がこの会社を」
「急にいわれても」
「私はもういい」
「考えておきます」
「そうだね。厄介なものを背負うことになるからね。いい話じゃない」
「春は来ませんか」
「回復はしない。落ちる一方」
「はい」
「規模をもっと縮めれば何とかなる」
「考えてみます」
「一人で、家のホームゴタツの上でもできるほどだ。これじゃオフィスとは言えないがね」
「座布団一枚分で済みます」
「そりゃ花札だ」
 
   了


2019年6月14日

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