小説 川崎サイト

 

右肩下がり


「平田君、ちょっと」
「はい」
「これなんだがね」
「売上げグラフですね」
「右肩下がり」
「はい」
「知っているだろ」
「はい、チェックしていますので」
「どう思う」
「こんなものかと」
「最初の頃と変わらん」
「最初は淋しかったですよね」
「それが少し上がりだし、それから右肩上がり。これは何処まで行くのかと楽しみにしていた」
「はい、いっときは期待しましたよ。倍々ですからねえ」
「今はバイバイだ」
「さよならですね」
「そうだ。これじゃ大損だよ。まだ突っ込んだ分さえ回収していない」
「そんなものですよ」
「これじゃ投資した意味がない」
「ある程度いけると思っていましたが、駄目でしたねえ」
「所詮流行り物か」
「旬が過ぎましたからね。今ではもう珍しくも何ともないし、あたりまえになったので、新鮮さがなくなり、冷静になったのでしょうねえ」
「これは誰が責任を取る」
「皆さん同意しましたよ」
「そうだ。私も同意した」
「誰も反対していません。だから追求する人もいないんじゃないですか」
「最善を尽くしたかね」
「これ以上尽くしようがありません」
「他に策は」
「無駄あがきです。余計に損をしますよ」
「じゃ、これはもう辞めるか」
「それは惜しいかと。それに今は経費はほとんどかかっていません」
「何かの拍子で盛り上がらんかね」
「その可能性はまったくありません」
「じゃ、続けるか」
「そうです。赤字というほどではありません。僅かですが黒字です。しかし突っ込んだ経費はまだ回収できませんが」
「そうだね。右肩下がりでも、黒字なら続ける方がいい」
「しかし初期の目的からすれば、完全に失敗ですが」
「じゃ、どうすればいい」
「このままでいいんじゃないですか」
「ずっとこの右肩下がりを見続けるわけか」
「底を突いても赤字にはなりません」
「それはいいねえ」
「そこだけは凄くいいです」
「底堅いというやつだ」
「うまい」
 
   了


2019年6月26日

小説 川崎サイト