小説 川崎サイト

 

墓守


 もう注目されにくくなったもの、ピークを過ぎたもの、人気がなくなったものは、元気がない。人気とは人の気、気を引かなくなったもの。しかし人気はなくても、それなりに続いていたりする。
「もう誰も気にも掛けず、気にも留めていないから安心だよ」
「何が安心なのですか」
「だから、気を遣わずできる」
「そうはいきませんよ」
「いやいや、誰も見ていないのと同じなんだから」
「誰かが見てますよ」
「誰が」
「さあ、絶無じゃないでしょ。少し衰えただけです」
「かなりだよ」
「そうですねえ」
「だから、もう適当でいいんだ。あまり熱心にやる必要はない」
「そうもいきませんよ」
「まあ、そこは適当にやってくれ、もう相手にされないんだから」
「ですから、数は減りましたが、見ている人は結構います」
「多いかね」
「少ないです」
「その程度なら、もうこちらも相手にせずともよい」
「でも厳しい目で」
「誰だ、それは」
「分かりません」
「不特定多数の中の誰かだろ。それは幽霊のようなもの。そんな亡霊に恐れる必要はない」
「そうですねえ」
「しかし、やめてはいけない」
「はい、続けます」
「続いているだけでいいんだ。やめていないだけでいいんだ」
「それって、最低レベルですねえ」
「廃れていくものはそんなものだ」
「また、盛り返すかもしれませんよ」
「そのパターンはここではない。一度落ちると駄目なんだ。そのまま世の中から忘れ去れていく。例外なんて何一つない」
「厳しいですねえ」
「だから、こちらも力を入れていない。スタッフも減らしたしね。残っているのは君一人だ」
「責任を感じています」
「いや、感じる必要はない。何とか続けていけばいいだけで、成果など期待していない。それに一人じゃできることも限られるだろ」
「はい」
「本当はやめた方がいいんだがね」
「じゃ、やめますか」
「君はどっちがいい」
「続けた方がいいです」
「そうか」
「一人だと気楽ですし」
「気楽か」
「はい、楽です」
「まあ、考えてみればいいポジションだよね」
「そうです」
「君がやめると、他にやる人はいないからね。人気が無いんだ。誰もそんな墓守のような仕事、したくないからね」
「はい」
 
   了


2019年7月2日

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