小説 川崎サイト

 

飲む話


 考える間などないのだが、吉田は考えてしまう。これは判断したくないというより、やりたくないのだろう。判断ではなく、そのことを。だからサボっているようなもの。
 それで二三日思案した。
「まとまりましたかな」
 そろそろ先方に顔を出さないと、放置したことになるので、吉田は訪問した。
「難しい話じゃない。即断、即決できるだろ。何を戸惑っておられる」
「少し心の整理を」
「じゃ、もうできたのだな」
「あ、まだです。まだ整いません」
「先延ばしにするとろくなことにはならん。それに迷うようなことじゃない」
「はい、しかし」
 ここでさっと決めてもいいのだが、それではあっさりといってしまう。もう少し何かが欲しい。だが、ここで強引に決めさせられるのを期待している。
「じゃ、決まったということでいいね」
「あ、もう少し」
 いいタイミングなのだが、飲めなかった。
「何か理由でもあるのかね。あれば聞こう」
 いい人だ。しかし、そういうことではない。決めてしまうと終わってしまうからだ。もう戻れない。
「特に理由はありません」
「じゃ、承諾できるじゃないか」
「はい」
「じゃ、決めていいな」
 これが最後の機会だろう。ここで飲むのを逸すると、ただ単に引き延ばすだけのことで、結局は何処かで飲むのだから、早い遅いだけの話。
「じゃ、決まったということで、いいね」
 流石に吉田はさらに否定できないので、黙っていた。これは受け入れたということになる。
「いずれにしても、良く考えて飲んでくれるので、その態度は悪くはない。大事に熟考に熟考を重ねたんだろうからね」
「いえいえ」
「さあ、これだ。飲んでくれ」
 吉田は丸薬を受け取り、さっと飲んだ。
「どうじゃ」
「水」
「あ、悪かった。水を用意する」
「早くお願いします。引っかかってます」
「悪い悪い」
 
   了


2019年8月23日

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