小説 川崎サイト

 

悪縁払い


「悪い相が出ておる」
「あ、そう」
「このままでは危ない」
「それは何ですか」
「運勢」
「はあ」
「定め」
「はあ。じゃ、何ともならないわけですね。運命、宿命なら」
「心がけで宿命も変わる」
「じゃ、宿命なんてないわけですね」
「変えればな」
「何を」
「だからそれを教えるのが占い師。だから金を取って職としておる。そのままでは占い師も役にたたんだろう」
「じゃ、どうすればいいのです。その宿命とか、運命とか、運勢とかを変えるには」
「今後、左目より右目が少しだけ小さい人が現れる。その人を避けること。それだけじゃ。関わってはならん」
「右目の方が小さいのですか。玉が」
「いや、やや閉じ加減でな。全部開いていない」
「はい、気をつけます。じゃ」
「待ちなさい」
「何か」
「お代」
「当たっていたら払います」
「そういわず、今、支払いなさい。常識でしょ」
「分かりましたが信用できないので」
「これであなたは助かるのだから、安い買い物だよ」
「そうですね」
 男は支払った。
「念を押すが左目よりも右目が少し小さい人物には気をつけない。避けて通りなさい」
「男ですか、女ですか」
「そこまでは分からん」
「年は」
「それも分からん」
「分かりました」
「これを悪縁払いという。ただし、払うのは本人。わしが払うのではない。悪縁が繋がらないように、あなたが上手く避けること、もし近くにいるのなら、遠ざけなさい。それだけじゃ。ただ、悪縁が減っただけで仕合わせになれたり、大成功を収めるということではない」
「はい」
「右目が細い顔、その人物をあなたは接触する運命にある。そのとき、避けることで、運命が変えられる。くどい説明になったが、大事なことなのでな」
「はい」
 しかし、この男、その後、左目のほうが細い人とは遭遇したが、右目が細い人と出合うことはなかった。
 そんな出合いの運命など、最初からなかったのだろう。
 
   了


2019年10月21日

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