小説 川崎サイト

 

満足を得る


「最近満足感を得ましたか。そういう満足を得た体験がいくつあります」
「一杯ありますが」
「そんなにありますか。本来満足を得られることなど希。そんな一杯あるなどはあり得ない」
「そうですか」
「一体どんな満足です。どういう状況のときなのかを教えてください」
「ご飯を食べたあと」
「はあ」
「満腹になるほど食べたとき、大満足です。とても良い気持ちになり、うっとりするほど。ああ、よかったなあ、美味しかったよりも、腹が膨れたことだけで満足、だからいつでも満足など得られますよ。ただし腹が減っていないときに食べると逆ですがね」
「それはただの生理的な満腹による、満足感ですね」
「十分でしょ。それで」
「私の言うのはそういう満足ではなく」
「ああ、満足にも種類があるのですね」
「そうです」
「しかし、満足には変わりないでしょ」
「もう少し高等なことでありませんか」
「たまに便秘で、なかなか出ないで、やっと出たと思ったら屁だったりして。空手形ですよ」
「それで」
「だから、溜まっていたものが出たとき、満足します。これは入れる満足じゃなく、出す満足。だから長い間捨てる機会がなくて、捨てられなかったゴミなんかを出したとき、満足しますよ。なかなかできなかったのに、やっとその気を起こしてゴミ出ししたとね。まあ、そのゴミは大型ゴミでして、持って行ってくれるかどうか不安でした」
「……」
「出してはいけないゴミじゃないはずなんですがね。誤解を招きそうなゴミなので、普通のゴミのようなわけにはいかない。出したことでとがめられるのではないか。しかし、無事、ゴミ置き場に出し、しばらくして、全部消えていると、ほっとしますよ。してやったりと」
「そのゴミの話、まだ続きますか」
「いや、この話、誰かにしたかったのです。それができて満足です」
「満足しやすいタイプなのですね」
「そういうわけじゃありませんが、不満も結構ありますよ。この前、蛍光灯の管が切れましてねえ。すぐに家電店へ買いに行ったのですが、そのあと百均へ寄ったとき、百円で売っているじゃありませんか。怪しい品じゃない。日本の家電メーカー品でしたよ」
「もう結構です」
「は、そうですか」
「満足を得る方法を紹介しようと思ったのですが」
「そうなんですか、じゃ、話の腰を折りましたか」
「折れていませんが、最近満足感を得ていない人でないと」
「ああ、それは残念」
 来訪者は不満顔で出ていった。
 
   了


2019年10月22日

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