小説 川崎サイト

 

ポイントカード


「カードお持ちですか」
「持ってません」
「お作りしましょうか」
「何か良いことありますか」
「ポイントが付きます」
「ほう、どのぐらい」
「一パーです」
「百円の買い物をして一円」
「一万円のお買い物で百円です」
「ここでは千円以下の買い物しかしないので」
「千円で十円です。かなりお得です」
「いや、五百円程度の買い物ばかりなので」
「五百円で五円です」
「そのカードを保管する手間があるでしょ」
「え」
「ですから、持ち歩かないといけない。ところが財布はカードでパンパンだ。これ以上入らない。ひな壇式に差し込む箇所がありますが、一つ入れるところを二つ入れる。するとどうなります」
「さあ」
「なかなか抜けない。それで爪を立てて、力を込めて抜く。その拍子で何か落ちたりします」
「はあ」
「それと私は財布は鞄の奥深くにあるファスナー付きの部屋にしまっています」
「部屋」
「ポケットです。鞄にそのまま入れますと何かの拍子で財布が飛んで出たりします。他のものを取り出すとき、引っ張られてね。それで、奥のファスナー付きの中に入れています。これなら鞄の口が開いていても落ちない。ところがです。これが手の入れにくいところにありましてね。しかもファスナーを引くにはコツがいる。まあ、引くときの方角はいいのですが、財布を戻してファスナーを閉めるとき、生地が柔らかいので、くにゃくにゃで上手くレールを走らない。一方を押さえておけばいいのですがね。だから片手では辛い」
「はあ」
「だから、そういう思いをして財布を出し、爪を立ててカードを抜いて出し、また戻す。その手間賃でポイントは帳消しだ。それが十パーなら考えますがね。十万円の買い物すれば一万円。その規模でないとね。ちなみにお金はポケットに入れています。だから現金はすぐに出せます。万札は財布ですが」
「しかし、塵も積もれば山となります。ここでそれぐらい使われるでしょ」
「使いません」
「では、ポイントなしと言うことで」
「はい」
 この会話が長かったためか、レジに行列ができていた。どの顔も爆発寸前で、あと二秒長引けば、どうなっていたか分からないだろう。
 長説明の男は、さらに続けた。
「ほら、こんなポイントのため、こんなに列ができたじゃありませんか。それに私も、こんなカードのためにこんな無駄な説明をしなければいけない。手間取るだけですな。ははは」
 たまりかねた後ろの客が男を押し出した。
 
   了


2019年11月8日

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