小説 川崎サイト

 

廃村を探して


 鶴田は道を違えたようなので、引き返した。よくあることだ。周囲は木々が生い茂る見通しの悪い山道。これは林道だろう。タイヤの跡が見える。その林道が迷路のように張り巡らされているのだが、新しいタイヤの跡はないようで、もう林業などしていないのかもしれない。その先に廃村があると聞いたのだが、そのためだろうか。
 林の隙間に畑跡があり、畝が崩れずに少しだけ残っている。水を引くためのパイプが割れている。
 さらに進むと納屋がある。それなら道を間違えていないのかもしれない。しかし、阿弥陀籤のような林道なので、一つ間違えると、迷うだろう。メインの道があるはずなのだが、どれがメインなのかは分からない。町から入って来たときの道は既に見失っている。いくつもの分岐点があり、阿弥陀籤を引くように左右どちらかを選んだ。似たような道なので、どちらが本道か見分けがつかなかった。
 しかし、何とか奥まで行けたのは本道だったためだろう。だが舗装が途中でなくなる。途中で工事をやめたのだろう。
 それで納屋跡を発見したので、村が近いことが分かり、ほっとした。既に村に入っているのだが、やはり農家が並んでいないと、村らしく見えない。
 納屋では人は住めない。だから農家が近くにあるはず。
 納屋跡を通過し、しばらく行くといやに道は細くなる。もう車が入れない山道。ここからは樵道だろう。こんな山中なのでハイキングコースではない。小高い山がゴロゴロ重なった場所で、登山向きではない。やはりある程度標高がないと、山登りらしくない。有名な山の方が人気がある。ああ、あの山に登ったのかと、人に言っても分かってもらいやすい。駒ヶ岳とか、鑓ヶ岳とか。富士山ならもっと分かりやすい。
 だが、地を這うような小さな山々は木々が多く、見晴らしもよくなく、また道も高いところではなく、沢伝いにあるため、山登りではなく沢歩きになる。
 背の高いササが道を覆うほどになったあたりで、やはり迷い込んだことを鶴田は知る。
 ではあの納屋は何だろう。そして畑もあった。
 要するに集落部から離れている場所にある耕地なので、農機具などをあの納屋に置いていたのだろう。それに屋根があるので、雨が降ったときも困らない。
 それで納屋まで戻る。半ば壊れているが、屋根はある。農機具らしきものもあるが、全部錆びている。
 袋から白い粉が出ている。小麦粉ではなく、石灰のようだ。
 道を違えたのは確かなので、戻ることにした。最後に選択した分岐点まで。
 そして納屋から出ようとしたとき、納屋の隅に板がある。板床のカケラではない。最初から土間の納屋だ。
 何かと思い、その板の上に乗ると、響く。
 鶴田は板の端を持ち上げると、ぎぎーと上がる。そして穴が空いている。井戸かもしれない。
 納屋の壁を見ると、縄ばしごらしきものがある。
 これは地下室。あるいは地下道への入り口ではないか。穴は地下ダンジョンに続き、廃村は嘘で、実は地下に住んでいるのだ。と、馬鹿なことを思った。
 鶴田は穴に足を入れ、そっと降り始めたが、すぐに足が付いた。暗くてよく分からないので、スマホを点けた。
 腐った野菜の欠片が残っている。ああ、冷蔵庫のようなものかと思い、がっかりした。
 再び最後の分岐点に戻り、選ばなかった方の道へと向かうが、そこも行き止まりで、やはり一寸した空間があり、何かの作業場跡のような場所。椎茸でも栽培したのか丸太がゴロゴロしている。
 そしてもう時間的にも遅いので、廃村探しはまたの機会にした。しかし、既にここが廃村跡なのだが。
 
   了
 


2019年11月9日

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