小説 川崎サイト



給水塔

川崎ゆきお



「お爺ちゃん、あれなあに?」
 孫娘が聞く。
 さすがに我が孫だと感心する。
 孫の守りで、自転車で団地近くを走っていた時だ。
「何だと思う?」
「塔」
「何の?」
 孫娘は団地の給水塔を見たことがないようだ。
「あれは怪人のアジトだよ」
「ふーん」
「上の方が膨らんでいるだろ。あそこが部屋になっているんだ」
「窓もあるね」
「夜になると明かりが点いてるんだ」
「怪人が暮らしてるの」
「そうだよ」
「怪人の隠れ家なの」
「そうとも」
 血の繋がりは恐ろしい。簡単に理解してくれる。
「すぐに見つかるじゃない」
「それが盲点なんだ。一番目立つ場所に隠れ家があるとは、誰も気付かない」
「ふーん。その怪人は隠れているだけ?」
「仕事をしているさ」
「悪い仕事?」
「悪人だからね」
「どんな仕事?」
「通信さ」
「インターネット?」
「違うよ。光通信だ」
「うちも光でしょ」
「本物の光通信だ」
「どうやるの?」
「夜に来ると分かる」
「今はやってないの」
「怪人は夜活躍するんだ」
「どんな?」
「あの窓の明かりが点いたり消えたりする」
「へー」
「合図を送っているんだ」
「悪者の仲間に?」
「そうだよ。合図が暗号化されているから、誰にも分からない」
 夜になり、孫娘の姿が見えなくなった。
 お爺さんは夜道を自転車で追いかけた。
 
   了
 
 


          2007年7月26日
 

 

 

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