小説 川崎サイト

 

常春の夢


 下田は色々とやってきたが、落ち着き先が何となく分かってきた。そういうものは最初は分からない。これは落ち着きを求めてやっているわけではないためだろう。むしろ刺激を求めてやっていた。
 最先端の尖ったもの。これは最新のもので、時代の先端。旬だが、まだ正体は分からない。これが定着するのかどうかさえ。
 新しいものとはそんなものだろう。色々と新しいものが出てくるが、その中で生き残るのはほんの僅か。これは下田にとっての話だ。
 尖った先っぽ。これは不安定だろう。居心地がいいわけはないが、刺激がある。
 そのため、ありふれたものでは刺激がない。また、より上があるのなら、それは途上で、途中。上へと行くだろう。そういう流れになっているのだが、その頂上が意外とまずかったりする。これは登ってみないと分からない。
 下田は下の田と書くが、上田を目指していた。上の方にあるので、上等。
 どうも下田という名が気に入らない。姓名判断を信じるわけではないが、そういうイメージがある。下田より上田の方が偉いように思える。だが名字と本人との因果関係はない。もの凄く珍しい名前なら、少しは影響がある。初めて聞いた人なら印象に残るだろう。
 さて、これまで色々とやってきた結果、先の尖った最先端に疲れてきた。それにそれらは次々と古くなっていく。だから最初から骨董品を扱っているようなもの。
 新しいはずなのに古い。そのときは新しいが、すぐに古くなる。だから先取りすれば最初から古いことをやっている方がよかったりする。どうせ新しいことが古くなるのなら、それは新しいことではないのかもしれない。
 このあたりに下田は気付きだした。新しいものは古くなるが、古くなってからでもまだ存在し続けるものがある。これは定着した新しいものだろう。既に古いのだが、安定している。
 そういうものはないものかと下田は探した。今までやってきたことの中にあるはず。
 そして発見した。既に鋭利なとんがりは丸くなっており、滑らか。触っても痛くない。今では平凡でありふれているが。
 下田はそれをやっていたことがあるのだが、もっと良いものがあったので、すぐに乗り換えた。
 しかし、最近思い出したのは、結構よかったためだろう。乗り換え先のものは先端を走っていたが転んだようで、その先はもうない。
 乗り換えた理由は、それほど素晴らしいものではなかったことや、上にもっと良いのがあることを知っていたためだろう。レベルが違う。だからレベルアップも兼ねて、乗り換えた。しかし、先はなかった。
 やはり下田は上田ではなく、下田なのだ。
 そして下田は下田に降りてきた。まるで住み慣れた故郷の春のように暖かい。要するに暑い寒いがない。
 ここが落ち着き先だったのかと、長い旅を終えた。
 目の前が黄色い。菜の花だ。
 目が覚めたとき、これはもの凄く良い情報ではないかと、夢のお告げを感じた。
 そして、そういう故郷の春の風景のようなものとは何かと探し出したのだが、ピタリと填まるものなど見つからない。
 しかし、下田は今まで無視していたのだが、その中にそっと隠されているのではないかと思い、その後も探し続けた。
 
   了

 


2019年12月25日

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