小説 川崎サイト



一円玉

川崎ゆきお



 昼時のコンビニだった。
 片岡は昼の弁当を持って来ていなかったので、パンと野菜ジュースを選び、レジで並んだ。
 友達一家が経営する鉄工所を手伝っていた。といっても、できた物を取り付けに行く時の手伝いだ。窓の鉄柵の片方を持っていればよかった。
 午前中に終わる予定が狂った。思ったよりも時間がかかった。
 片岡の友達も嫌々ながら手伝っていた。鉄工所のプロではなかった。
 しかし片岡から見れば、溶接の火花を上げるだけでもすごい技術者に思えた。
 片岡は、鉄柵を持ち上げる手伝いだけなので情けなかった。
 現場では別の職人が働いていた。セメントをこねる人や植木屋だ。
 いずれも有用な人達で、片岡だけが何もできない人間だった。
 片岡は友達の分を買い忘れたのに気付き、レジの列から抜けた。
 サンドイッチと牛乳を加え、再びレジに並ぶ。
 レジは二か所あったが、どちらも行列ができていた。
 弁当を温めたり、おでんを注文している人もいる。この時間、客が集中するようだ。
 あとから来た客が片岡の後ろにいる。よく流行っているようだ。
 片岡の番になったので一万円札を置いた。千円札が切れていた。
「こまかいものありませんか?」
 千円札のことではなく、小銭を出してくれと、言っているのだろう。
 レジの液晶を見ると、三円出せば、納得してもらえると思った。
 ないと答えてもよかったのだが、協力することにした。
 ポケットに手を突っ込み、小銭を握った。十円玉と百円玉に混じって一円の白い玉が三枚以上あった。
 片岡は指先で一円玉をより分けているとき、後ろの客のカバンが背中にあたった。
 あたった場所が悪く、ショルダーが肩からずれそうになった。左肩だった。
 小銭を持っているのも左だったため、かくんと手首が浮いた。
 片岡はとっさに開いていた指を閉じたが、一円玉一枚を落とした。
 拾おうとしゃがんだとき、ショルダーが肩から外れ、床に落ちた。
 片岡は先にショルダーバッグを拾った。
 一円玉を見失った。
 行列ができているが、一円玉を拾うのに時間はかからないはずだ。
 しかし、落ちた場所が分からなくなった。転がったのだろう。
 隣のレジ前に落ちていた。少し距離がある。もたもたしたくない。
「もういいですよ」
 レジの主婦バイトが釣銭を出した。
 レジを済ませた片岡は、一円玉を拾った。その姿は我ながら情けなかった。
 
   了
 
 



          2007年7月28日
 

 

 

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