小説 川崎サイト

 

吉野姫神社


 荒れた神社がある。鬱蒼と茂る樹木の中にある。森の中にある神社は普通だが、あまり手入れがされていないのか、密林状態。放置した庭木のようなものだが、古いだけに巨木が多い。それが伸び放題。かなり離れたところからでも見えるが、周囲にマンションなどが建ち、今では目立たないが。
 既に村の面影はない。田んぼだったところは全て宅地か、何かの施設。残っているのは家庭菜園程度。
 その神社は当然村の神社。荒れているのは氏子が減ったためではない。昔から住んでいる人は結構多い。
 だが、農村時代から、この神社、嫌われている。以前あった神様を追い出し、都から来た領主に縁がある神様に変えたため。
 その領主、別にそこまで望んでいなかった。興味がなかったのだろう。
 変えたのはこの村の有力者。その人が庄屋になった頃からだ。都の領主と関係のある人だ。だから、地元の村人は馴染まない。新任の代官様のようなものだろう。地の人ではない。
 それはうんと昔の話だが、今、この神社が寂れているのは、そこに遠因がある。村人から信仰を得なかった神社のためだろう。しかし、神主がいる神社で、代々庄屋の縁者が継いでいるのだが、その庄屋も没落してから久しい。残っているのは、この神社の神主の家系だけだろうか。
 都から来た領主の時代から、江戸時代は幕府の直轄領になり、本物の代官がこの村を含め、一郡を管理している。
 余程、前の庄屋時代が気に入らなかったのか、村の行事は隣村の神社で一緒にやっていたりする。以前祭っていた神様と同じ神社なので。
 それで村人に嫌われた神社だが、田畑を多く持っていた。それで氏子などいなくてもやっていけたのだろう。
 寂れだしたのはそれら田畑を売ってしばらくしてからだ。住宅地に囲まれた森。神社がそこにあることなど、越してきた近所の人も知っていたが、他所から来た人達なので、あまり興味はないようで、犬の散歩にはちょうどなので、その程度のもの。
 では、古くからこの地にいる人達の鎮守の森の神様は誰だったのか。
 それは実はまだいるようで、古い農家だった家の庭の祠の中にいる。主だった農家はそれぞれ庭に祭っていたのだ。お稲荷さんやお地蔵さんのように。
 祠がない家は、家の中の神棚で祭っていた。
 神様は姫様と呼ばれている。吉野姫のことだ。これが、ここの村人たちが土地を拓いたときに持ち込んだ故郷の神様なのだ。隣村も同じ。
 大昔の伝承だけに出てくる神様で、神話に出てくる神様の娘だが、その神話そのものが口伝えなので、ある土地の伝説のようなものだろう。ヨシノヒ。
 さて、その村人に嫌われ、荒れ果てた神社だが、田畑を売り、一寸した事業をやっていたが、あまりうまく行っていないようだ。
 しかし、雑木林のような中にある神社だけに、意外と神秘的で、かんなびている。下手に神様など祭らない方がいいのだろう。
 
   了


2020年1月24日

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