小説 川崎サイト

 

強いは弱い


 強い武者は弱い。強いので弱いのだろう。
 その戦い、これは小競り合いで、乱戦状態になった。
 お互いに敵の様子は分かっている。誰が強く誰が弱いのか。
 そして、一番の強敵が現れたので、誰も手が出せない。まともに挑めば大怪我をするだろう。それで、避けまくった。その剛の者、戦う相手がいない。
 敵はその剛の武者の後ろにいる。盾にして進んできたのだ。
 ここは駆け引き、来たので、引いた。剛武者には敵わないためだ。当然のこと。
 そして後退したところで、立て直した。
 今度はまた剛の者が先頭だったが、今度は両脇に回り込み、剛の者を避けて戦った。それで、また乱戦になったのだが、今回は策がある。
 まず、剛の者を切り放した。そこに伏せていた四人ほどが囲み、四方から一気に同時に槍を入れ、瞬殺。
 強い者ほど狙われ、マークされ、必要以上に攻撃を受ける。だから、強い者ほど弱いとなるのだが、決して弱くはないのだが、一番簡単に仕留められた。囲んでしまえば、いくら強くても、何ともならない。
 ただ、それには、そういった策を立てる人間がいないといけない。それを思いつき、それを指揮できる人間。当然、その通りに動いてくれる仲間がいないといけない。だから、いい策でも実行できなかったりする。
 ただ、その剛の者を何とかすれば、楽になるというのがあり、共通するものがあった。
 では毎回そんな目に遭うのなら、強い者は警戒するだろう。真っ先にやられると。
 だが、その剛の武者に立ち向かい、もし倒したとすれば手柄になる。こちらの方を選ぶのが普通かもしれないが、弱い者が集まっていることがポイントだろう。だから弱いほど強いわけではない。ここは弱い。
 弱い者ほど色々と計を立てる。まともにやりあったのでは負けるためだ。
 そういう姑息な話を老武者が若武者たちに向かい話していた。
「弱い方が強いので、生き残るのですね」
「そうではない。数が多いので、生き残る率が高いだけじゃ」
「しかし、私達は死を恐れません。名誉です。主君のため、命を落とすのは」
「それがある。だから、困るのじゃ」
「そうでしょ。忠臣ではありません」
 老武者は話の腰を折られ、散々攻撃された。
 つまり、その年まで何度も戦場に出ながら生き延びていることが不忠だと。
 確かにこの老武者、未だに身分が低い。後方で指揮を執ってもいいほどの年寄りだ。なかなか出世しないのは手柄がないため。
 ただ、この老武者が任された小隊の死傷率は非常に低い。それで、若武者たちは文句は言っていても、素直に従っている。
 
   了



2020年2月16日

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