小説 川崎サイト

 

狐馬


 三村は予定を立てない人。大事なことは覚えている。忘れるようではさほど大事なことではないのだろう。忘れるほどのことなので。
 人と会うときも、日にちと時間と場所は暗記している。それほど多くの人と頻繁に会わないので、その程度は覚えている。これもたまに忘れることがある。きっとそれほど大事な相手ではないのだろう。
 予定を立てると実行が億劫になる。義務のようになり、それを果たすのはあたりまえとなる。決まり事をする場合、無機的になる。あまり感情が入らない。予定としてあるので、やるだけ。しかし、これはやりたくない。しないといけないことになってしまう。
 それよりも、いきなりやるのがいい。予定表はないが、頭の何処かに書かれている。だから忘れてしまったわけではないので、急に思い出したようにやるのではなく、起動待ち。その気になったのでやる。
 その気は予定にはない。天気のように変わるし、予想もしにくい。当てにならない。気分の問題なので。
 予定が頭の中にパンパンに入っていると苦しいだろう。それがいいことならいいが、たとえいいことでも忙しい。
 予定として立ててしまうとやるのが嫌になる。困った性癖だ。できれば予定にないことをしたい。しかも思い立ったらすぐに。ここで躊躇すると溶けてしまうので、早い目に。
 その気になったときが大事で、これを延ばすと、もうやる気が失せ始め、溶け始める。
 しかし、世の中は自分だけが思い立っても、何ともならないことがある。三村はそのタイプなので、周りが付いてこない。急に言い出すためだ。何の予告も伏線もなく。
 その三村から電話などを受けるとき、三村がまた何か言い出したと、警戒される。しっかりとした計画性がないため、狐が馬に乗って走っているようなもの。それに付き合えない。
 三村だけが盛り上がり、勢いがいい。これも周囲が困る。ついていけないのだ。
 これは息が合わないのだろう。だから気も合わない。
 三村は積極的に仕掛けるのが好きで、義務で果たすのを嫌がる。当然命令されるのも嫌いだ。
 しかし、三村にも学習能力があり、色々と不都合が出ることは学んでいる。
 それで、最近はそれらを上手く隠している。急ぐ話、盛り上がっている話でも、ゆっくりとする。相手の息に合わすためだ。
 猫を被っているというより、狐を被っているのだろう。
 しかし、この狐馬、走り出すと突破力が凄く、敵なしだったりする。
 
   了
  


2020年2月21日

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