小説 川崎サイト

 

アルミ


 岸和田は考えがまとまらないので、整理することにした。こんな状態はあまりよくなく、まとまらないことが問題で、これはまとまらないことなのだ。そのため、いくら整理しても、まとまらないだろう。
 部屋で煮詰まったので、外に出ることにした。これは同じことで、外ならまとまるわけではないが、頭を冷やすには丁度いい。
 室温よりも外は低い。だからもろに冷やすことになるが、頭の先が冷たくなるほどの低温ではない。それよりも風があるので、それを受けていると気持ちがいい。煮こみすぎて焦げ付いていたのだろう。
 そのまま散歩に出たのだが、すぐ近所なので、別に変化はない。風景はそこにあるのだが、見ていない。相変わらず見ているのは、先ほどまでの懸案。まとまらないものをまとめようとまた繰り出す。
 まとまらないままでは判断を下しにくい。判断しなければ動けない。止まったままになる。だからまとまらない状態でまとめるしかないが、まとまらないのだから、まとめようがない。
 ではまとまらない状態のまま決めてしまうのはどうだろう。この決定はまとまりのない決定で、決定のための決定。適当に決めたということだが、その適当が意外と難しい。何か背中を強く押すようなものとか、きっかけになるものが一ついる。
 だから適当に決定したものは、すぐにまた取り消される。そのまま進めれば問題はないが、やはりブレーキがかかる。自分に対しての説得力が弱いため。だから動けない。従って、適当に選んだとしても、選べないということ。決まらないまま。
 夜風が気持ちいい。もう寒くはない春の宵。いい感じだ。懸案よりも、こちらの方がよかったりする。それで、頭の中の整理など忘れて、散歩を続けた。
 こういう散歩中に思わぬきっかけを見付け、ああ、そうだったのかとなるパターンもあるが、そんな偶然は先ずないだろう。ただの町内。
 前方にいきなり法師が現れ、何かを伝えて、さっと消える。ということもないだろう。何故法師なのかは分からないが、普通の人よりも賢そうだ。
 折角外に出たのだから、自販機で何かスカッとしたものを買おうとした。炭酸系がいいだろう。
 岸和田はポケットから小銭を取り出し、投入し、ボタンを押す。カランと缶ものが飛び出た。キャップのある小瓶がよかったのだが、仕方がない。
 アルミ缶。
 アルミだ。啓示はアルミだ。
 岸和田はさっと部屋に戻り、アルミをキーワードにして懸案をさっと解いた。見事なものだ。
 散歩には出るものだ。
 
   了
  


2020年3月13日

小説 川崎サイト