小説 川崎サイト

 

気流


「気流というのがある」
「空気の流れですね。風水のようなものですか」
「人の流れじゃ」
「通行人が多いとか」
「内面の流れ、心の流れ」
「空気を読むとか」
「そうじゃな」
「当たりましたか」
「何かには当たる。そういう風にできておる」
「じゃ、ここでいう気流とは天気のことじゃないのですね」
「人が持っている気分のようなものじゃ」
「気が変わるとかがそうですね」
「そうじゃな」
「また当たりました」
「当たるようにできておる」
「そうですね。適当に言えば、どれかに当たりますから。それで、人の気流がどうかしましたか」
「人の心には流れがある」
「そっちの気流ですね」
「そうじゃ」
「当たりましたね」
「繰り返しになる」
「はい」
「気流というのは一つではない」
「人生の流れは一つでしょ」
「それはメインの流れ。実際に起こっておることが含まれる。想像ではなく」
「はい」
「そのメインの流れは別の流れの影響を受ける」
「別の流れとは何でしょう」
「一寸気になることとか、本題ではないが、最近気にしているもの。拘っているもの、などかな」
「どうでもいいようなことですか」
「そうじゃな、直接人生には関係がないことが多いが、影響はする」
「何でしょう」
「普遍性が低い。個人個人の勝手な思いじゃ。しかし、人生規模じゃない。一寸した好みの変化とか、好みの変わり方とかで、重要事じゃない」
「雑念のような」
「色々じゃ。食べるものの好みが変わったとかでもいい。これを箸の流れが変わるという。着るものが違ってくるのもそうだ。自分の中の流れ、流行がある。いずれもメインではない。そういう気流が常に複数流れておる」
「本流ではなく、傍流ですか」
「いいことを言う。わしより上手いじゃないか」
「いえいえ」
「その傍流の流れ、傍流の気流が本流を変えてしまう。もしくは本流の影響で傍流が生まれ、傍流の流れが生じるとも言えるし、また独立して、本流とは無関係に、そういう流れが続いておることもある」「どっちなのですか」
「個人個人違うので、何とでも言える」
「それで、本日の大事な話は、それですか」
「不満か」
「いえ」
「流れには指向性がある」
「向かっている先ですね」
「それは先々まで見えておるわけではなく、一つ向こう側に着くと、指向性が変わる」
「分かりにくいです」
「指向性とは差しているだけ。指し示しているだけ」
「それは想像の世界ですか」
「その想像が現実のものになると、次なるものが出てくる。それはまだ経験していない世界。やってみないと出て来ん世界。流れが現実化してこそ次が見えてくる」
「もう分かりません」
「傍流は本流ではないが、この傍流の気の流れが本流に影響する。そういう話じゃ」
「はあ。色々と解釈できますねえ」
「その解釈の流れが変わるということでもある。見え方が違ってきたりな。それが気流。本流以外のところでもその気流が発生し、本流を引っ張っていったりもする」
「師匠、単純なところで、止めて下さい」
「それもまた、聞くものの気の問題。先を聞きたがるか、早くまとめて、豆知識程度に収めてしまうのかは、志向性の違い」
「だから、余計ややこしくなりますから、もうこのあたりで」
「そうか。どうも最近わしの気流は乱気流になっておるやもしれん」
「季節の変わり目ですからね。お大事に」
「ああ、そうじゃな」
 
   了

  


2020年3月14日

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