小説 川崎サイト

 

話食い


 白銀岳を下ると小屋があるらしい。山小屋だろうか。三村はそう聞いたのだが、単なる噂。
 誰かが話しているのを盗み聞きしたのだが、その人が実際に見たわけではない。
 白銀岳。雪が積もるほど寒い場所でもないし、高くもない。だからこの白銀は銀山かもしれないが、白を付ける意味がない。だから加工した白銀で、これは貨幣に近いだろう。と、すると、これは財宝。白銀が埋まっている山なのかもしれない。銀山ではなく。
 しかし、そんな財宝を埋めたのなら、わざわざここに埋めましたと言わんばかりの山の名にするわけがない。
 三村は地図で確かめると、確かに白銀岳はある。町や村から遠く、奥山に属するだろう。山暮らしの人が名付けたのだろうか。
 三村は宝探しというような悠長なことをやる気はないが、白銀岳を下ったところにある小屋というのが気になる。山に興味はなく、また山小屋にも興味はないが、何かの縁。そういう話を耳にしたので、物語を起こすことができる。
 聞いたのは酒場。こういうところでは嘘か本当か分からないようなウダ話が多い。
 白銀岳を下ったところに小屋があり……のあとがよく聞こえなかった、その横の席から笑い声がして賑やかになったので、どんな展開になるのかは分からないまま。
 それを聞いている二人の客は普通の顔で聞いていた。その程度の反応だ。
 話食いというのがある。人の話を食べてしまうのだ。美味しそうに聞こえる。
 そして、これがきっかけになる。つまり、曖昧な情報だが、ネタといえばこれぞネタ。大して高い山ではなく、山は深いが高い山が続いているわけではない。里から離れすぎている程度。白銀岳の標高も大したことはない。
 ただ、ハイキングコースとかにはなっていないだろう。名山ではない。見渡す限りありふれた山また山の中の雑魚山。
 そこに山としての膨らみが独立してあるので、適当に付けた名だろう。行ってみなければ、どんな形の山なのかは分からないが、そのあたりの航空写真や、最寄りの町から見た風景写真があり、それを見る限り、よくあるような山々。山脈ではなく、山地だろう。
 白銀岳は地図にもあり、航空写真でも分かる。この山地部で特に高いわけでもない。形は真上からではほとんど分からない。他の名の付いた山に比べ、大きいわけではない。
 白銀岳を下ったところに小屋がある。下からその小屋へではなく、上から降りてきたところに小屋がある。入り方が逆だろう。
 または他の山から白銀岳を回り、違う山へ行くとき、一度下り、その下に小屋があるのだろうか。
 低い山々なので、避難用の山小屋ではなく、山仕事の小屋かもしれない。
 三村はそこまで思い描いてしまったため、白銀岳を見たい、山小屋が見たいと本気で思うようになった。山の名の由来も気になる。
 次の休みの日でも、行ってみようという気になった。目的はないよりあった方がいい。またある方が行きやすい。これを話食いという。
 しかし、その後、忙しくなり、休みの日は寝てばかりいた。
 それで、白銀岳の話は、そこで途切れた。折角積もった白銀も溶け始めた。
 話食いにも賞味期限があるようだ。
 
   了


2020年4月25日

小説 川崎サイト