小説 川崎サイト

 

季節の変わり目


 吉岡は体調が優れないので、静かにしていた。季節の変わり目のためだろう。冬から春になりかけているとき体調を崩した。ついこの間のこと。
 それが去ってすぐにまた春から初夏への変わり目に遭遇したのか、下り坂。四季の移り変わりごとに崩しているのだから忙しい。しかしこれはもう慣れたもの。ただただ静かにしておれば戻るが、たまに戻らないで、そのまま次の変わり目に来てしまうことがある。流石にそのときは重ならない。だから変わり目が来ても変化はない。悪いままだが、これも慣れてくると、その悪さに気付かなくなる。回復しているのだろう。気にならないし、体調の悪さが目立たなくなる。
 今回は春から初夏への切り替え。気温がぐっと変わった日から悪くなる。何となく元気がない。そんなときは静かにしているしかないが、日常のことは普通にこなしている。
 そういう元気のないときは元気のないことをするしかない。威勢のよい溌剌としたことはできない。しかし、これは逆療養で、改善することもあるが、元気がないので、元気なことなど最初からやる気がしない。
「元気のないときにできることを探している」
「元気じゃないか。そんな難解なものを探すなんて」
「簡単に見付かるはず。ゴロゴロしているはず」
「そうかなあ、案外難しいよ」
「簡単なことなら、元気がなくてもできると思うけど」
「一見そう見えるけど、簡単なことほど実は難しい」
「そんな凝った話じゃなく、気楽に寛げて疲れないようなことならあるだろ」
「あるなら、聞く必要はないと思うけど」
「うう」
「ほら、探してもないんだ」
「一杯あるんだが、やる気がしない」
「元気があるからやる気がしないんだ」
「話が逆転しているように思うけど」
「じゃ、どうすればいい」
「体調が悪いんなら何もしない方が」
「そこまで悪くはなく、何かできそうな」
「じゃ、元気なんじゃないか」
「そうかなあ」
「季節の変わり目で崩したって言ってたねえ」
「そうだけど」
「じゃ、もう回復したんじゃないの」
「そうかなあ」
「何かやりたがっているのがその証拠」
「いやいや、そうじゃなく、元気がないから、元気がないときでもやれることを探しているんだ」
「それが元気な証拠」
「話が見えない」
「しかし、そんなことを相談しに、ここまで来たんだから、元気じゃないか」
「そうかなあ」
「まあ、元気な姿を見て安心したよ」
「そうじゃないんだけどなあ」
 
   了


2020年5月12日

小説 川崎サイト