小説 川崎サイト

 

日常の内と外


 日常内と日常外がある。日常外は非日常でもあるが、常識があり、非常識があるような図ではない。日常外は日常内と隣接しており、日常から少しだけ外れている程度。だから決して非日常ではない。日常とは常日頃からやっていることや、立ち回り先だろう。ただ、日常は人により範囲が違うので、その個人によって異なる。
 毎日行っている喫茶店、しかし定休日があり、週に一度だけ別の店へ行く。週一なら日常内に入るだろう。準常連に近い。よく見かける客だし、よく見かける店の人。二週間程度ならまだその範囲内。月に一度だと、徐々に外れてくる。半年一年だと、もう圏外だろうが、まだ顔ぐらいは覚えているだろう。
 吉田は毎日行っていた場所がある。そこが行けなくなり、別の場所へ行くようになった。そちらの方が遠いし、方角も別。そのため、通る道も変わってしまった。そこは臨時、代用だ。
 しかし二三日で慣れだし、一週間もすると、その沿道にも慣れてきた。やはり毎日そこを通っていると覚えてしまうのだろう。二週間ほどすると、もう日常内に組み込まれた。その場所までの道中やその場所での変化を毎日見るようになったためだろう。その後、日常のこと、いつものこととして取り込まれた。
 ところが行けなくなっていた場所へ行けるようになった。
 吉田は以前の日常に戻れることになり、それで遠くまで行く必要もないし、何年も通った場所なので、馴染みが違う。それで元に戻れた。
 しかし、いつもの場所は近いが狭い。その沿道も短く、変化に乏しい。だから風景など見ていないほど。
 それに比べると、その代用で行っていた場所の方がいい感じなのだ。
 そうは思うものの、遠いところまでわざわざ出掛ける必要はなく、折角戻れたのだから、代用の場所へは行かなくなった。
 二週間ほどなので、まだ日常内。これが一ヶ月後なら圏外になってしまう。今なら、まだ日常範囲内のまま行ける。
 それで吉田は行き慣れたいつもの場所ではなく、代用の場所へ、また行くことにした。もう代用の必要はないのだが、こちらの方がいつもの場所よりもいいためだ。
 そして、久しぶりに出掛けたのだが、二週間の間隔は感じられなかった。やはり圏内のためだろう。
 代用のつもりが、今ではいつもの場所となり、完全に日常のものとなった。つまり代用から常用へ昇格。
 選択外だった場所だが、臨時で行った場所が意外と良かったということだろう。その場所だけではなく、そこへ行くまでの風景も。
 そうなると、いつもの場所が闇の中に入ってしまう。逆にそこが日常外になる。再び行くときは少し躊躇するだろう。
 
   了

 

 


2020年5月29日

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