小説 川崎サイト

 

間を置く


 上手く行かないときは少し間を置けと武田は言われた。
 信号のない横断歩道。簡単には停まってくれないのは、停まりたくても後続車が気になるため。またそこで止まっても対向車線も停まってくれなければ人は渡れないだろう。しかし、待てばいずれ嘘のように車が来なくなり、簡単に渡れる。
 タイミングの問題で、時期の問題。難しいことでも少し待てば簡単にいくことがある。
「まだ待っておるのですか」
「はい、上手く行かないときは待てと言われたので」
「もう一年になる」
「はい、でも言われた通り、上手く行きそうになるまで待っています」
「少し」
「はい」
「少し待ちなさいと言っただけです。少し」
「少しでしたか」
「ずっとじゃないか、君は」
「はあ、でも少し待った程度では、なかなか頃合いがなく、上手く行きそうな気がしませんでしたから」
「じゃ、一年も待てば十分だろう」
「そうですね。忘れていました」
「待っていることを忘れたのかね」
「たまに思い出しますよ」
「間を開けすぎだ。そろそろやりなさい」
「はい」
 さて、そのそろそろだが、どのぐらいがそろそろだろう。今日明日にでもだと思える。
「始めましたか?」
「まだです」
「また、そういうことをやっておる。そろそろは過ぎた。すぐにやりなさい。即」
「はい、すぐにやります」
「よし」
「でも、すぐって、今ですか」
「そうだ。今すぐだ」
「何をするんでしたか」
「とぼけないで」
「あ、はい、色々とやっていないことがありまして、間を置いたのが沢山あります。どれでしたでしょうか」
「私が頼んだ件だ」
「えーと、それはもう一年前ですよ」
「そうだ」
「遅すぎます。今頃言われても」
「君が遅いんじゃないか」
「そうですねえ。じゃ今すぐやります」
「そうしてくれたまえ、いや、もういい」
「どうしてですか」
「やはりもう遅すぎて、間の抜けたことになる」
「そうですよ。今やっても間抜けですよ」
「抜かしたのは、君じゃないか」
「ああ、そうでした」
 
   了

 

 


2020年5月31日

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