小説 川崎サイト

 

今日も休む人


「今日はのんびりしたいねえ」
「いつも言ってますねえ」
「そうだったか。しかし今日はのんびりしたい」
「昨日ものんびりとしていたじゃないですか」
「そうだったか、結構慌ただしかったけど」
「まあ、ペースは人それぞれ」
「そうだね。私はゆっくりがいい。そしてのんびりが。もう年だからね、急いでやっても先が見えておる。大した成果は上がらんし、精一杯やってもやらなくても似たような結果。それじゃ、のんびりやった者勝ちだよ」
「それだけが理由ですか」
「今日のように暑い日は動くと辛い。疲れる。いい気候の頃の倍は疲れる。じっとしているだけで疲れそうだからね。だからのんびりとしていても、結構疲れるんだ」
「若い頃はバリバリ働いていたと聞きますが」
「そうだね。将来があったからね。そのうち、やってもやらなくても大した違いは起こらない。先輩の高見さんを見てご覧。あの人は怠けの天才だ。あんな人でもやっていけるんだ」
「しかし、最近厳しくなりましたから、下手をすると首ですよ」
「そうだったか。そんな風には見えんが」
「まあ、上ものんびりしているからでしょ」
「そうだね。やってもやらなくてもいいような仕事だからねえ。まあ、それを言っちゃあおしまいだが」
「ところで今日はどうします。早退ですか」
「いやあまり早退が続くと、流石の私も気が引ける。今日はここで休憩してるよ。仮眠室、空いてるだろ」
「山城さんが入ってます。そのあと三河さん、川口さんが順番待ちで」
「生意気な」
「いえいえ、皆さん徹夜でしたから」
「あ、そうだったか」
「主任が休まれるのなら、私も休みますが」
「それは君が判断してくれ」
「そうですか。ここじゃ流石に休めませんから、早退します」
「そんなことしなくてもいい、記録に残るから。外に出て、遊んできなさい」
「いいですか」
「ああ、用事を言いつけたことにする」
「はい」
「そのまま家に帰りなさい」
「有り難うございます」
「いやいや」
「主任はどうなされます」
「仮眠室、並んでいる状態だから、仕事でもするか」
「そうなんですか」
「いや、仕事が一番休めたりしてね」
「あ、はい」
 
   了

 
 


2020年6月12日

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