小説 川崎サイト

 

機嫌の良い風景


 岡田は今日もその道を自転車で移動している。用事で出るとき、いつも通る道。昨日と同じような風景が続き、明日もそれほど変わらないだろうが、天気により風景は一変する。その天気は日々違う。だから一日として同じ風景ではないが、数日前の風景とほぼ等しいほど似ている。当然一日の中でも時間によって天気が変わることがあり、それらを考慮すれば、結構日々変化はあり、同じような風景ではない。いつも見慣れた風景といっても、ずっとそれが続いているわけではない。
 そして日々の用事。これも昨日と同じような用なのだが、やはりここでも違いがある。長く換えていない便所のスリッパ。何処かで買う必要がある。台所のスリッパもそうだ。そして靴下もゴムが緩んでいる。古い靴下なら何足もあるが、揃っていなかったりする。色の近いのならあるので、それを履けば何とか誤魔化せる。靴とズボンとの間の僅かな隙間。そこからしか靴下は見えない。それに岡田は長い目のズボンを履いているので、靴下が見えるとすれば、座ったときだろう。しかし、誰も岡田の足元など見ないだろう。余程妙なことになっていない限り。
 そういう買い物などの用があるのだが、それはついで。見かけたときに買えばいい程度。
 用事で外に出たとしても、急ぐような用件ではなく、平和な用件だ。しかし、何を買うのかは日々違う。米が切れておれば米を買う。
 同じ道を、昨日と同じように自転車で移動していても、同じではない。そこに体調などが加わると、向かい風や坂道でもないのにペダルが重い。当然調子の良いときは軽い。これも日々違うが、分かっている変化。だから気にする必要もない。
 しかし、この何でもない道を平凡な用事で移動するというのは、結構良い状態なのだ。悪い状態なら、それどころではない。体調も、かなり悪いと自転車に乗れなかったりする。それ以前に歩くだけでも大変なこともある。まあ、怪我や病気のときはそうなる。
 さらに日々の勢いというのがある。これは生き生きと何かをやっている日は、移動も軽快。シャキシャキしている。まあ、そんな日は長く続かないので、やはり怠いような移動になる。
 機嫌良く暮らすというのは結構難しかったりする。そんなに良い機嫌が続くわけではないため。これは軌道に乗っている状態だろうか。順風で、風が帆を膨らませ、スーと進む。それが理想だろう。
 そのため、機嫌の悪い風景と機嫌の良い風景がある。
 岡田の目的は機嫌の良い風景へ持っていくこと。これは単純なようで、なかなかそうならないのが普通だろう。機嫌は結構手強い。
 
   了


 
 


2020年6月13日

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