小説 川崎サイト

 

天狗剣


 戦国時代が去り、鎧武者が集団で戦うようなことはなくなった。主な武器は弓と槍。そして鉄砲の時代になっていた。
 太刀での斬り合い。実際の戦闘ではほとんどなかったのではないかと思われる。足利将軍義輝が襲われたとき、名刀を何本も使って戦ったとされている。そして免許皆伝の太刀の使い手。将軍なのだから武将としては最高峰にいる。その人が自ら剣を振り回していたというのは、もう最後の最後だろう。そして太刀は個人技だったのではないかと思われる。一対一とかの。
 しかし、この太刀がそののち流行ったらしい。剣術だ。実際の集団戦では役立たないが、個人の技として、また武家のたしなみとして、それを身に付ける人が増えたのだろう。
 それで、浪人者などが召し抱えてもらおうと、諸国をウロウロしていた時代。剣の達人は、かなり有利。
 さる藩で、御前試合が行われた。恒例だ。他の藩でもやっている。つまり藩主という御前の前で武芸を披露とするということだ。
 そこに登場した若き松之丞という少年に近い青年が、あっという間に決勝戦まで残った。
 どこをどう突こうが、隙があるようでない。斬りかかると、するりと交わされる。これではどこにも打ち込めない。逆にほんの僅かな隙にさっと切っ先が入る。それが見えないほど早い。だが、決して相手は隙を作ったわけではない。
 これはとんでもない少年剣士が現れたと藩主は喜んだ。召し抱えれば自慢になる。
 そして決勝戦。これも、簡単に仕留めてしまった。これで、優勝が決まったのだが、藩の師範代が私が相手だといって飛び出した。これも恒例だろう。
 それも簡単にやっつけてしまったので、文句なし。
 ところが、立会人の中の一人の老人がしゃしゃり出て、何やら殿様に話しかけている。
 藩主は、うむうむと聞いている。そして、分かったとばかり、少年剣士に尋ねた。どうしてそんなに強いのかと。
 すると少年剣士は山で天狗から習った経緯を長々と話した。
 殿様は、しゃしゃり出てきた老人と目を合わせる。老人は首を振った。
「失格」
 少年剣士は御前試合の決戦で勝ち、さらに藩の師範代に勝っているのだ。それが失格とは理解できなかった。
 要するに、この少年剣士、自分の力ではなく、妙な力で勝ったのだ。
「よって不公平なり」
 と、判断された。
 
   了
 


2020年6月20日

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