小説 川崎サイト

 

血の雨


「蒸し暑いですねえ」
「梅雨ですから」
「でも雨が降らない」
「降った方がすっきりするのですがね」
「うちもそろそろ降らせましょうか」
「もうそんな時期になってますか」
「降らし時です。既に過ぎています。遅れると、もう降らせられない」
「そのままでもいいんじゃないですか」
「ここで一雨来ないと、いけないでしょ」
「そうですねえ」
「そのための密約はできているはずです」
「かなり経ちます」
「まだ、有効です」
「じゃ、降らせますか」
「大雨をね」
 それで雨が降ったのだが、降りすぎた。
「軽く降らせるつもりでしたが、これはやり過ぎだねえ」
「はい、大荒れです。逆に立ち直すまで時間がかかりそうです。ある箇所では壊滅的で、機能していないとか」
「しかし、大成功じゃないか」
「そうなんですが、成功しすぎました」
「そうなんだ」
「大雨を降らして、壊してしまったようなものです」
「血の雨を降らしすぎたようだ」
「そうなんです」
「しかし、蒸し暑かったのが、すっきりしただろう」
「はい、涼しくなりましたが」
「じゃ、いいじゃないか」
「私は去ろうと思っています」
「折角雨を降らしたのに」
「綺麗さっぱり流れ落ちましたが、落としすぎです」
「汚いものは洗い落とすべきだろう」
「でも、この大雨、不意打ちでしたから、汚い手だったと思いますよ」
「手段は選ばぬ。そうでないと、機を逸してしまう」
「でも去ります。手を汚しすぎました」
「君は功労者だ。功臣だ。高い地位が約束されておる」
「いえ、去ります」
「そうか」
 
   了


2020年6月26日

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