小説 川崎サイト

 

手強い人


「何もない日が綿々と続いているといいのですがね、たまに用事が入ります。これは目立ちます。スケジュールとして成立しますからね」
「成立?」
「そうです。忘れますから、メモしておかないと。普段のことなら記憶していますから、忘れませんがね。その日だけにある用事とかは、いやですねえ」
「普段と違うことをするのがいやなのですね」
「ああ、良いことでも悪いことでもそうです。どちらもプレッシャーがかかります。これがいやなんです」
「つまり、プレッシャーがいやなのですね。用事ではなく」
「そんなところです。毎日同じようなことをしていると、たまに違うことがしたくなりますがね。それは特別な日になってしまい、そういう日が面倒なのです。善いこと、楽しいことでもね」
「はあ」
「しかし、良いことがあったとか、良い事になるぞ、とかならいいんです」
「それは何ですか」
「動かなくてもいいからです。そういうことを知ったり、聞いたりするだけで」
「つまり、動くのが面倒だと」
「毎日よく動いていますよ。運動や出掛けるのがいやなのではありません。昨日と違う動きをするのが面倒なのです。たまにはいいといいますが、特別な日になります」
「あまり活動的ではないわけですね」
「活動は大いにやってますよ。しかし、それは昨日の続き。いつもやっている動きだからいいのです」
「はあ」
「まあ、個人の心境なので、人それぞれ。また、月に一度とか週に一度ある用事もいやですねえ。毎週だと、すぐに来ますよ。まあ、毎週やっていることならいいのですが、それでも、昨日とは少しだけ違うことをしないといけない。月に一度の方がさらに面倒でして。毎週よりきついです。それが大した用事じゃなくてもね」
「でも、日々変化するでしょ。同じことでも」
「がらりとは変わりませんから、それはいいのです。そして日々の流れの中だと、それはスムーズですから。自転車に乗っていて前方の石を少しだけハンドルを切って避ける程度の変化ですからね」
「それがお答えですか」
「そうです。長い断りの理由になりましたが、あなたのお話、残念ながら呑めません。その理由は先ほどからずっと話していた通りです」
「しかし、私があなたと話すのは、普段にはないことでしょ」
「だから、面倒なので、会いたくなかったのですよ」
「変化は望まないと」
「変化は大いに結構。しかし、それには自然な流れがないと、説得力がありません。いきなりいい話があるから参加しないかと言われましてもね。その気にはなりませんよ。一からその気を起こす必要がありますので、それが面倒」
「いい話なのですがねえ」
「そんなにいい話なら、人に言わないでしょ」
「はいはい」
 
   了


2020年7月15日

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