小説 川崎サイト

 

会長の朝会


 会長の朝会は今始まったことではなく、江戸時代から続いている。社長を退き、会長になったのだが、今は名誉会長。しかし、その人脈は生きており、力も衰えていない。これは権力という力だ。腕の筋肉とかは関係しない。足などは細いが、邸内をよく散歩する。築山があり、そこを毎日上り下りしている。たまには邸内を出て、そのあたりを歩いている。ただの老いぼれにしか見えない服装で。
 この会長の朝会は伝統があり、もう何代、何百年も続いている。江戸の初めの頃、その藩の家老職だった人が始めた。朝に必ず人を呼んでいた。これは招待だ。夜の商工会議所ではなく、朝の会議所だ。朝会の走りだ。その中には町人や女性も混ざっていた。
 その朝会が綿々と続いているのだが、今は会費がいる。食事代。それがべらぼうに高い。そんな朝定食など、一流料亭でもないだろう。だが、料亭が朝から開いているかどうかは分からないが。
 招待ではなく、会費を払えば誰でも参加できる。社員以外の取引先や、その他様々な人達が参加している。しかし十人ほどで、それ以上多いと別間になる。まるで料亭のような屋敷だ。しかし武家屋敷が料亭になったりするので、その逆だろう。ただ、会長邸は武家屋敷ではない。
「あまり効果はありませんなあ」
 会長邸へ向かう道で、二人の客が話している。
「私は毎朝通っていたこともありますよ。まあ会社の経費で。しかし、効果がないので、最近は月一です」
「僕は自腹を切って月一です」
「高い朝飯代だ」
「そんなもの朝飯前です」
「そんな洒落を会長の前でいうと、とんでもないことになりますよ」
「そうでしたね」
「黙って、静かに食べている人が好きなようです」
「それと会長の話なんですがね。あれは何とかしてほしいです」
「いや、落語と同じで、毎回語り方が違いますよ」
「そうでしたか」
 この会長、特に大活躍したわけではないので、武勇伝もないし、伝説もない。非常に地味な話が多い。一応教訓らしきものはあるが、それがコロコロを変わったりする。そのあたりも聞き所なのだ。
 頻繁に通っているのは取引先の人達。社員もたまに顔を出すが、高いので、何ともならないので、一度か二度顔を出す程度。
 この二人、高田と岩下だが、これを最後に来なくなった。効果がないためだ。
 この朝会、実際に仕切っているのは奥さんで、小遣い銭にしていた。
 そして出席簿を持っている。それをたまに会長に見せる。
 出席簿とは、朝会に来た人の名簿のようなもの。
「高田と岩下が最近来ないねえ」
「はい」
「米山はよく来ているねえ。顔を覚えたよ。最近来る回数も増えている。ふむふむ」
 会長のふむふむにはどういう意味があるのだろう。そして効果を発揮するのだろうか。
 
   了




2020年7月29日

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