小説 川崎サイト

 

隠し部屋


 昨日と同じような一日が始まったのだが、少し違う。それは当たり前のことで、そっくりそのままコピーするようなことはできない。
 目覚め方も違うだろうし、天気も違う。体調も違う。同じ作業でも捗ることもあるし、そうでないときもあるし、また勢いがあるとき、無いときもある。この先が楽しみだと思える日もあれば、もう先がないと思う日もある。いずれも変化している。そのため、そのときの気持ちがずっと続くわけではない。
 外側も内側も変化している。ただ、それがあまり派手でなければ、同じような日々ということになる。
 島村の日常もそんなもので、世間から見れば同じようなことを日々繰り返しているように思われているが、実はその内面は波瀾万丈だったりする。
 しかし、見た目ではそれは分からない。やはり変化が少ないのだろう。確かに変化はしているが、変化と言えるほどのものではなかったりする。
 だが、変化の波が穏やかなほど、一寸した波が大波に見える。だから島村が思っている波瀾万丈はそのことだろう。その程度の。
 古い借家に住んでいるのだが、部屋が一つ増えている。いつ増えたのかは分からない。そういえばあったような気がするし、なかったような気もする。その部屋は廊下の突き当たりの右側にある。左側は納戸がある。右側は壁だったはずだが、戸のようなものが浮かび上がっている。
 その壁の向こう側は奥の部屋の押し入れだろう。両方から押し入れに入れるようになっているとは思えない。押し入れは二段で、蒲団などを押し込んでいる。
 島村が廊下の突き当たりまで行くのは滅多にない。左側の納戸、これは物置だが、その戸を開ける機会が少ない。だから、その廊下を歩くことも希。そんな戸が右側にできているのに気付かなかったのも無理はない。納戸は一つで、それは左側だけ。右側には何もなかった。
 変化といえば、これも変化だが、ただの変化ではないかもしれない。あり得ない変化の可能性もあるが、島村は、そこまで考えていない。そういうのがあったのか程度。物置や押し入れで不自由していないこともある。必要性を感じないためだろう。
 その戸、開けると地下への階段か、上への階段があるかもしれないし、また本物の隠し部屋があるのかもしれない。
 いずれも島村にとって興味のないことなので、そのまま放置している。
 気が向けば、または、日々の変化が乏しく、退屈なときに、その戸を開けてみようと思った。
 もしそんな戸ができているのなら、日常が吹っ飛ぶだろう。
 
   了
  


2020年8月30日

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