小説 川崎サイト

 

隠しオフィス


「地下三階なのですが、地下二階は機械室で、ここまでは入れます。地下一階は駐車場です。地下三階があるとは思っていませんでした。地下二階の機械室の端に下へ降りる階段がありました。古くはありません。このビルができた頃のものでしょう。上階の非常階段と同じ階段です。しかし踊り場がなく、深いです」
「その先は」
「階段を降りきると廊下に出ました」
「明かりは」
「あります。上階と同じような廊下で、明るいです」
「先へ進みましたか」
「はい、左右にドアがいくつもありました。これは隠しオフィスですねえ。さらに進むと突き当たりに階段があります。上に昇ると、機械室に出ました。何でしょう。あの地下三階は。ドアが並んでいましたが、怖いので開けませんでした。誰かいるとまずいですし」
「絵です」
「え」
「でもノブがありましたし」
「そこだけは本物です。だからそれらのドアは全て開きません。地下三階は通路だけの階なんです」
「これは極秘ですか」
「機械室までは誰でも入ろうと思えば入れます。故障したときなど、メンテナンスの人が来ますしね。一般の人も駐車場から降りられるので、入れます」
「どうしてそんな通路だけを作ったのでしょう。機械室の下に廊下があるだけでしょ。何か意味があり、用途があるのかもしれませんが、何故ドアが並んでいるのですか。それに綺麗でした。廊下も壁も、上の階のように」
「あなたが降りていった機械室の階段、二箇所あることはお分かりですね」
「はい、降りた口と昇った口」
「その階段への入口、どうなっていました」
「ドアはありません。普通の階段でした」
「だから、機械室の一部なんです」
「でも通路だけですよ。下は廊下だけ。何のために、そんな通路を。それに二箇所ある降り口、見えています。地下を潜らないと行けない場所じゃない。それに、あのドアの絵はなんですか。ノブだけが本物とすれば、そんなもの付ける必要もないし、ドアそのものも部屋がないのなら、書く必要はない」
「あなたは、どうして、そこへ行ったのですか」
「どうして」
「そうです。機械室に用でも」
「いえ、下に階があるので、何かなと思って、駐車場から降りていったので、下も駐車場かな、と思ったのです」
「このことは積極的に人には話さないようお願いします。別に秘密でも何でもありません。あなたが見た通り、種も仕掛けもなかったでしょ。ドアは絵なので、ただの通路。だから地下三階などないのと同じです」
「絵じゃないドアがあるのかも」
「そう考えますか」
「言われるまで、それは絵だと思いませんでした。ドアが左右に並んでいるのですよ。隠しオフィスだと思いましたよ」
「気になるのなら、また侵入すればいいでしょ」
「しかし、誰が何のために」
「さあ、私にも分かりません」
「有り難うございました」
「いえいえ、別に秘密にしているわけじゃありませんからね。しかし積極的に人に言わないで下さいね」
「はい、承知しました」
 
   了


2020年9月1日

小説 川崎サイト