小説 川崎サイト

 

満足を得る


「満足度ですか」
「そうです」
「それは微妙ですねえ」
「人によって違いますから」
「つまらないものでも満足される方がおられる。また、ものすごいものでも満足なされない」
「それが満足度です」
「不思議ですなあ」
「気持ち、精神力、体力。考え方、好み、まだまだ言えば切りがありませんが、それらが織りなす綾なのです」
「誰もが満足するはずのものが、ある人には不満とは言わなくても、それほどのものではなかったりします。これはやはり本人の事情によるものでしょうなあ」
「仰る通りです」
「僅かな人だけが満足を得られることもあります」
「特定の状況が揃っていないと無理な場合がありますから、条件が付きます」
「誰でも得られる場合は条件が低いのでしょうなあ」
「そうですねえ」
「私は好みの変化が満足度に関わると思っております。しかし、何故好みが変わったのかが、問題でしょう。変わらざるを得ない状態になったとかもありますしね。また、今まで必要としなかったものが必要になるとかも」
「そうなんです。色々な要素が絡み合っていますから、そこが微妙なんです。また微妙なだけに好きが嫌いになったり、嫌いなものが好きになったりします」
「満足度とは好みの問題でしょうか」
「そのあたりだと思われますが、その好みというのがまた微妙で、好まざるを得ないような好みもありますし」
「満足を得たいものです」
「いや、知らないうちに満足することもありますよ。狙わなくても」
「しかし、満足は狙うものでしょ」
「狙ったものがよいとは限りませんから」
「何でしょう」
「ただの感性でしょ。感覚。気持ちの問題でしょ」
「それだけですか」
「まあ、満足を得るには、それなりの蓄積も必要でしょう。二三歩で山の頂上よりも数時間かけて登ってやっと頂上なら、同じ場に立っても満足度が違うと思いますよ。過程が加わります。この過程がものを言い、山上からの眺めはつまらないものでも、感動したりするものです」
「それは自分に対して感動しているようなものですね」
「そうでしょ。だから満足度というのは、色々な綾が絡み合って熟すのでしょうなあ」
「有り難うございました。いい話でした」
「満足を得ましたか」
「いいえ」
「あ、そう」
 
   了


2020年9月2日

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