小説 川崎サイト

 

ある集まり


「夏の疲れが出たようです。今日は休ませて頂きます」
「頂きたいか」
「はい」
「分かった」
 富岡は電話を切った。先に切ったのは、まだ何か言いたそうな声が聞こえたため。その声とは最初の言葉「あ」だったか「そ」だったのかは曖昧だが、そのあとを聞かないまま切った。どうせ言うことは決まっている。
 仮病で欠席。よくあること。これは仕事ではない集会、寄り合いだ。
 そろそろこの団体と手を切りたい。もう飽きてきた。最初から好奇心だけで参加した。いったいどういうものだろうかということもあるが、富岡の将来に役立つ可能性が大いにあった。その路線に富岡がいる。どんびしゃだ。
 しかし中味は親睦会で、雑談会。中味がない。大事なこと、本当のことはここでは語り合わないようで、よく知られた情報は流れるが、その程度なら富岡も知っている。一般人でも知っているだろう。
 先ほど電話したのは林田という幹部で、富岡はこの林田系となっている。勢力は小さい。林田に人望がないためだろう。それと口うるさく、文句の多い人。語っていることは愚痴がほとんど。そしていつもぼやいている。
 富岡はこの林田がとっつきやすかったので、その仲間に入った。あまり偉い人ではないのが付け目。
 しかし林田も本当のことは言わない。他のメンバーもそうで、雑談して帰る程度。その雑談も世間話や、個人的な日常噺。最悪は天気の話だ。
 この親睦会の後ろに大物がいる。富岡はその大物に近付きたかったのだが、寄り合いには来ない。この人が実は主催者らしい。
 そして、この寄り合いに来ているのは雑魚。
 そういことが分かりだしてから、もう行く気がしなくなり、欠席が続いた。
 その大物は何故こんなつまらない会を開いたのだろう。大物にとって何処かで役立っているのだろうか。そうでないと無駄なことをしていることになる。
 電話が鳴った。
 取ると、先ほどの林田。しつこい。
「吉田さんが来るらしい、君に合いたいとか」
 吉田とは、例の大物だ。
 富岡は飛ぶように向かった。
「こうでもしないと、君は来ないからね」
 林田の嘘に引っかかった。
 富岡は今度こそ脱会する決意をした。
 
   了


  

 


2020年9月10日

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