お払い
川崎ゆきお
「こんにちは、NHKですが受信料の集金に参りました」
裕二は既にドアを開けてしまっていた。不覚というほかない。
「NHK見てないから」
「申し訳ありませんがテレビのあるお宅は料金を支払ってもらうことになっているのですが…」
故郷の親父と何処か似ている…と、裕二は思った。
そう思った箇所は、小鼻の下にあるホクロ。
「でも、NHKは見ていないから…」
だが、大相撲中継の音が流れている。
「あれは友達から借りたビデオだよ」
「放送受信料ですので、テレビを受信する場合には…」
「テレビはビデオを見るためにあるだけだよ」
「あのう、何度も私、来ることになりそうなんですが、協力してもらえませんか」
裕二の親父は腰を痛め、仕事を休んでいるので、国に帰って農作業を手伝ってくれと、母親から何度も電話があった。裕二は領収証を受け取った。
最初から払うつもりはなかった。
払うことなど念頭になかった。
来れば断るだけのことで、選択肢はそれ以外にはないはずなのに、払ってしまった自分がいる。
裕二は不思議な気持ちになった。
何かを払い落としたような気分なのだ。厄払いのお札でも見るように、裕二は領収証を見た。
そして裕二の顔が曇った。それはコクヨ製の領収証だった。
了
2004年9月26日